<初日レポ>らまのだ「青いプロペラ」は、やはり、運命に翻弄される人を、ほのぼの描く。

#芝居,#らまのだ

若干のネタバレあり。観劇後、感動したからこその怒り、を覚えました。怒らせてくれるほどに素晴らしい作品です。



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観劇三昧」で観た、らまのだ。
最新の公演「青いプロペラ」の、初日の舞台を観てきました。

公演データ

シアタートラム ネクスト・ジェネレーションvol.11
らまのだ『青いプロペラ』
2018 年 11 月 29 日(木)~12 月 2 日(日)
作:南出謙吾
演出:森田あや
場所:シアター・トラム

観劇データ

場所シアター・トラム
日時2018年11月29日 19時30分〜
価格3500円 全席指定(公式でネット予約)
上演時間110分(途中休憩なし)

客席は満席。意外にもシニアなご婦人連れ合い、単独シニア紳士層、背広のサラリーマンあるいはその5-6人の団体、業界人っぽい人、が多かったですね。
どういう繋がりだろう。
満席にもかかわらず、観劇後も、ハッシュタグのツイートは非常に少なかったです。

物語

石川県の田舎町。スーパーマルエイの近くに大型ショッピングセンターが。反対運動しつつも、店長も店員もどこか他人事。ショッピングセンターが立つまでの、マルエイの従業員の間の出来事を、会話劇として紡いだ作品。

ストーリーだけまとめるとこんな感じです。

感想

物語は「「明後日まで内緒にしておく」」と同様、企業活動が、抵抗できない出来事で縮小する時、その事に翻弄される人々を描く。

翻弄されるも、従業員達は、目先の事を考えて、日々変化なく生活していく。
正常化の偏見というのか。牧歌的な何かなのか、その本質については詳しくは語られない。

そして、避けられないショッピングセンター開業と業績悪化。

役者の演技の力だろう。どんな状況でもたくましく、活き活きと生きている人々の表現は、舞台芸術としては美しい。
でも、抵抗できない、という事実を浮かび上がらせて、観客に何を投げかけたかったのか。その事を考え出すと、少し憂鬱でもあり、怒りに似た感情も覚えた。

やはり、作者は人の営みに対して、どこか醒めた感情を持っている。そのくせ、その営みを見る目線は、愛情にあふれている。この擦れた感覚が、正直「タチ悪い」と思ってしまう。

劇中、店の外に餌付けされている鳩が語られる。飛べなくなった鳩が、詩とともに語られる。

確かに、人生どうにもならないことがある。あえて指摘するのも、可笑しいことがある。
でも、それを舞台にのせて表現して、どうしようというのか。「人生、そんなものだ」、と楽になろうというのか。人って、もっとたくましいんじゃないだろうか。演劇は、そっちを語るべきなんじゃないだろうか。

無粋を承知で、そんな反論を、作者や演出者対してしたくなってしまう。

・・・納得できないけれど、深く感動した作品に出会いました。

ラストの演出(というほどのものではありませんが)。
風景は、不要だったかなぁ、と個人的には思う。観客の想像力を信頼して、別の手段を取ってもよかったはず。
でも、カーテンコールをせずに幕を閉じたのは、この作品の意図としては、素晴らしい演出だったように思います。

役者

役者さんが素晴らしいので、全員について書いてみます。が役について書くと、何度も「運命に翻弄される」と書いてしまう。

富川一人は、スーパーマルエイの店長、小柳役。あがなえない力に、何とかしようと試みつつも、どこか牧歌的に、他人事のように生きている。最初から諦めているのか、本当は闘う気だったのか。本人でさえ、よく分からない。そんな若者を好演していました。

田中里衣は、総菜部のチーフ、猪原役。部下が自分より優秀だったり、店長との恋が実りそうだったり、この騒動の中で母を亡くしつつも、やはり運命に翻弄されてしまう。どこか掴みどころがない女性は魅力的でした。

林田航平は、エリートの精肉部サブチーフ、増田役。職人気質のチーフのミスに翻弄されつつも、自らのプライドを守りつつ、女を口説きまくり、やはり運命に翻弄されてしまう。女を愛してしまう理由。唐揚げ、機能美、分析力。あのくだりは好きだなぁ。男ってそういうところ、あると思うんだけれどな。一回だけ、怒りを爆発させるシーンがありましたが、あの演技は見事でした。

福永マリカは、まだ若い、正社員の頑張る女の子、八木役。弁当の企画が当たったり、周りに助けられながら頭角を表すも、やはり店の傾きにはなすすべなく、運命に翻弄されていく。最後の、精肉部チーフの坪井さんとの会話のシーンは、そもそも思考を表に出すつもりがない坪井と、翻弄されて思考停止してしまっている八木のやり取り。バーベキューセットでも売るか、というのに、反論つつも賛同してしみぅ。ものすごくリアリティを感じました。

今泉舞は、シャイながらも物事の本質を意外と見極めているレジ係、絹川役。店の外の鳩に餌をやり、****に口説かれてちょっとウキウキしながらも、やはり運命に翻弄れていく。彼女が休憩所のテーブルに立って、鳩の飛び立ちの詩を朗読。突然、詩の朗読が差し込まれても、全く不自然ではなく受け取ることができました。

斉藤麻衣子は、地元のパートのサバサバした女性久保役。彼女だけ、スーパーを辞めてショッピングセンターに就職する道を自ら選びます。でも、結局ショッピングセンターでやっている仕事は、スーパーマルエイの仕事の二番煎じなのか。そんな悲しい現実が、弁当の企画の名前が似ている事で浮かび上がってきます。流されず、懸命に生きている、という点では、観客の視点で、最も感情移入し易かったかもしれない。でも、結局違う場所に行っても、同じだよ、という作者の声が聞こえてきて、なんて残酷なんだろう・・・と思ってしまいました。

井上幸太郎 は、スーパーに出入りする運送業者、佐野役。過去のマルエイと商店街との歴史と紐づけながら、第三者的に、シニカルに物を見ていたように思います。結局彼がどうなったのかは語られなかったのですが、存在感を示していたのは間違いありませんでした。

猪股俊明は、精肉部のチーフ坪井役。精肉の現場一筋。チーフという仕事に慣れずに苦労しながらも、いろいろなものを飲み込み、やはり翻弄されていく。かつて商店街にあった家業の店を、マルエイが開業したことで潰された事をフラッシュバックさせて、自らに自身が持てない状況を演じていました。
猪股俊明Toshiaki Inomata – レトル Web Site

観劇三昧で観たのとは、数倍大きな舞台でしたが、全く負けず、役者たちの堂々たる演技が、この作品を牽引していました。

また、"STARS ON PAN"のスチールパンの演奏が、この物語の「牧歌的な感じ」を余すところなく表現していました。
stars-on-pan

観劇三昧

らまのだを観に行ったきっかけは、「観劇三昧」。
らまのだの作品は、「明後日まで内緒にしておく」を、スマホ、パソコンで観ることができます。
なかなか、初劇団を観に行くのは勇気が要りますが、観劇三昧で納得してから、劇場へ足をお運びください。

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