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【観劇レポート】新国立劇場「焼肉ドラゴン」(2025年)

#芝居,#新国立劇場

【ネタバレ分離】 新国立劇場「焼肉ドラゴン」の観劇メモです。

初回投稿:2025年10月09日 3時22分
最終更新:2025年10月09日 3時28分

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名新国立劇場
日韓国交正常化60周年記念公演
焼肉ドラゴン
脚本鄭義信
演出鄭義信
日時場所2025/10/07(火)~2025/10/27(月)
新国立劇場小劇場 THEPIT(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

新国立劇場は、オペラ、バレエ、ダンス、演劇という現代舞台芸術のためのわが国唯一の国立劇場です。公益財団法人新国立劇場運営財団は、包括的に新国立劇場の管理運営を行っています。

新国立劇場

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

万国博覧会が催された1970(昭和45)年、関西地方都市。高度経済成長に浮かれる時代の片隅で、焼肉屋「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。

店主・金 龍吉は、太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にするふうでもなく淡々と生きている。

家族は、先妻との間にもうけた二人の娘・静花と梨花、後妻・英順とその連れ子・美花、そして、英順との間に授かった一人息子の時生......ちょっとちぐはぐな家族と、滑稽な客たちで、今夜も「焼肉ドラゴン」は賑々しい。ささいなことで泣いたり、いがみあったり、笑いあったり......。

そんな中、「焼肉ドラゴン」にも、しだいに時代の波が押し寄せてくる。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2025年10月07日
18時30分〜
上演時間180分(途中休憩を含む。 85-休15-80)
価格8800円 全席指定

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。

感想(ネタバレあり)

新国立劇場「焼肉ドラゴン」

1970年前後の大阪。万博も開催されてにぎやかな時代。場所はセリフからするとおそらく伊丹空港の近く。戦後に空港整備のために住みついた在日朝鮮人。この一画には下水道もガスもない。辛うじてできた水道と電気。そんな朝鮮人の町にある焼肉店「ドラゴン」。戦争で片腕をなくした金龍吉と高英順と、腹違いも含む娘三人、一番下の息子一人。周りの人々も巻き込んだ群像劇。在日朝鮮人と差別され貧しくも、力強く生きる人々の物語。

2008年新国立劇場で初演。その後2011年2016年と再演されて今回"再々々再演"らしい。恥ずかしながらこの作品のタイトルすら知らなかった。最近はちょこちょこ観に行く新国立劇場が各所で随分と推しているのと、オレンジの印象的なチラシが気になり観劇。この感覚だと当日券はおそらく早晩手に入り難くなるなぁと思い初日を狙う。初演の2008年の時期は、私が演劇を観る余裕がない時期だったとはいえ…いやぁこんな凄い作品を知らなかったなんて本当に不覚。ものすごい作品に出会えた。小劇場THE PITで、スタンディングオベーション、しかも初回のカーテンコールで立つなんて思ってもみなかった。

舞台は、正に焼き肉屋「ドラゴン」の店先。緻密に作られたバラックのセット。開場は(一般的な演目だと30分前だが)開演の20分前。場内に入ると既に舞台ではドラゴンの客たちが焼肉を焼いていて劇場内には焼肉の匂い充満。実際に本編でも、舞台上で食べ物は本物が扱われていてケーキやらマッコリやらが乱れ飛ぶ(さすがにマッコリは本物ではないと思うが)。その場所の現実感みたいなものがとても凄いのと。

ストーリーはすごく混み入っているわけではなく、むしろコミカルに展開する舞台(特に前半は)。かつ、異母の三姉妹の恋物語を中心に展開される。昼間っから酒を飲んでいるどうしようもない男たちと芯の強い女たち。それぞれ性格は違うものの、何かにつけてお祝いと酒を飲み焼き肉屋食べながら「生きている」。…今まさに生きている人を「力強く生きている」なんて客観的に語るのは、こんな感想の文章としてもちょっと変だなぁと思いつつも、でもやっぱり「笑いながら力強く生きている」人々が生き生きと描写されている物語。その生がとても的確に表現されていて、狂おしくも愛らしいのがたまらない。

その中で、ストーリーテラー的にトタン屋根で物語を語る末っ子の時生(ときお)が印象的。中学生で日本の私立学校に通っているらしいが、にぎやかな街の人々の中に入ろうとしない異質な存在。でも冒頭から、あるいは途中でも唐突に、ストーリーテラーとしてどこか俯瞰的に物語を語っている場面がある。そのちぐはぐさを「何故だろう」「この物語が語られている"今"時生は何をしているのだろうか」と思う。終盤に具体的には明示はされないものの、トタン屋根の上から飛び降りて自殺してしまう時生。未来に存在して然るべき語り部が、物語の途中で自殺してしまうのには驚いたが…自殺そのものを描いているというより、いろいろな事情でその町を好きになれない感覚、嫌だと思う感覚、それでも町の事、家族の事を忘れてしまう事、忘れられてしまう事を嘆く、複雑に入り組んだ感覚を、時生という人物に象徴させているように感じる。物語全体は基本はぎやかな家族の物語。でも、そこに入りたくても入れない様々な事情みたいなものが透けて見えるのが上手い。

在日韓国人のコミュニティはかつてほど強固ではなく、一つの「民族」としての記憶はだんだんと忘れ去られつつある、と聞く。かつてそういった状況の中で、激動の時代を貧しいながらも明るく生きた人々がいるという、薄れてしまう「町の記憶」をなんとか生き生きと残そうと試みている。そんな作品に感じた。

役者さん。印象的な方が多かったけれど、三女の実花役のチョン・スヨン、次女の村川絵梨が印象的。あと、2002年ごろに山田ズーニーのPodcast「おとなの進路教室。」で知ったチェ・ジェチョルが太鼓を叩いていた。初遭遇出来て感激。

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