<観劇レポート>第62回神奈川県高等学校演劇発表会(高校演劇 神奈川県大会)

#芝居,#高校演劇

第62回神奈川県高等学校演劇発表会(高校演劇 神奈川県大会)の感想です。

最終更新:2023年11月23日 13時57分

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
名称第62回神奈川県高等学校演劇発表会(高校演劇 神奈川県大会)
日程2023年11月18日(土)~11月19日(日)
会場神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
(神奈川県)

上演演目(観劇したもの)

上演順学校名タイトル日時
1日本大学高校今日も舞花がいちばんかわいい作:出囃子小林11/18 9:30-
2県立相模原弥栄高校ねことひとの小さなあくむ作:矢野真優加〇11/18 10:45-
8県立上溝南高校自分クエスト作:菊池遥11/19 9:15-
9県立海老名高校積乱雲の向こう側作:坂本華乃〇11/19 10:30-
10県立住吉高校昭和みつぱん伝 浅草・橋場二丁目物語作:タカハシナオコ11/19 11:45-
11県立茅ケ崎高校・鎌倉学園高校グッドボーイ~旅立ち作:たじまかつひろと演劇部〇◎11/19 13:30-
12法政大学第二高校エンとデビ作:徳武蓮〇11/19 14:45-
13神奈川大学附属高校ラフ・ライフ作:新堀浩司、潤色:目崎剛11/19 15:50-

〇生徒創作 ◎顧問創作

観劇出来なかった分も含めた上演一覧はこちら

満足度の記載について

私自身の満足度を、個々の演目ごとに記載します。 「CoRich観てきた」に投稿している個人的な満足度と同じ尺度で表現しますが、大会なので順位が付くため、1点きざみの5点満点では表現できないので、小数点まで細かく書いてます。

感想(ネタバレあり)

上演順1.日本大学高校「今日も舞花がいちばんかわいい」

作:出囃子小林

あらすじ

学校で目立つ存在の清水舞花は言う。「だって舞花がいちばん可愛いもん。」。 弱気な風紀委員、高城恋。 強気なギャル、 百瀬夏帆。理不尽で不条理の多い現代と戦い 本当の自分を見つけていく、小さな青春物語。

感想

他人の目を気にせず、自分の好きなゴスロリの服を着て学校に来ている舞花。風紀委員の高城恋とその友達の百瀬夏帆が、ひょんなことから舞花と友達になっていくも。周りからの風当たりが強い。ツンデレな舞花だったが、気が付くと恋と夏帆に対して友達心を抱いていく。先生に喰ってかかったのがきっかけで停学に。舞花は、学校とは別の道を進む事を決意する。

既成本。同じ日に行われている埼玉の県大会でも、同じ脚本が上演されているっていうポスト(Tweet)が流れていた。劇中のセリフにも「恥ずかしい事言っちゃった」っていう台詞があるが、観ていて、観客側が恥ずかしくなってしまいそうなくらい、テーマにストレートな脚本。「友達は大事」「人は共感により他人と友達になっていく」「他人に左右されずに自分を貫く」という事が、そのままの内容として展開する。演じる側にも恥ずかしさにも若干の恥ずかしさ、照れくささのある作品ではないかと思う。ゴスロリを二着ほど着こなした舞花役がひるむことなく「かわいい」のと、三人のグルーヴ感が好演。

直後のtweet

満足度

(4/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順2.県立相模原弥栄高校「ねことひとの小さなあくむ」

作:矢野真優加〇

あらすじ

野良猫のサチには、リョウという人間の友達がいる。 今日も公園で野良猫の友達と共にのんびり日常をおくるサチ。 すると、 リョウがいつにも増して思い詰めた様子でやって来て・・・・・・。

感想

生徒創作。作品全体を通して感じたのが、古今東西の物語あれこれのエッセンスを、いろいろと抽出してツギハギして物語を作ったのかな、という感覚。猫たちが公園に集まる集会や隣町から来たネコなどは、どこか「ルドルフとイッパイアッテナ」を思い起こさせるし、ヤカンの中から出てくる精は「アラジン」だし。巨人の肩に乗ってうまく物語を作っている感。

猫たちが愛らしくて、コミュニティが上手く表現されていて、物語とは別にずっと観ていたい感覚。それぞれが個性的でキャラクターが濃い猫たちが、ランプの精が乗っ取ると突然キャラが変わるのも、魅せ方として面白い。いつも側にいる人間のリョウ。彼の悩みが理解できないので、夢の中では人間と話せる事を望むも、やっぱりリョウの悩みまでは理解できない。いじめとか、家庭の問題とか、具体的なテーマに持ち込んでも良さそうなのに、リョウの悩みがどこまでも抽象的に語られるが秀逸。ネコだとしても人間同士でも、やっぱり他人の悩みを理解するのはそもそも難しいんだ・・・と言っているように見えてるくのが良かった。

ものすごく余談なのだけれど、人間のリョウ役の女性(おそらく脚本を書いたのも彼女)、コンプソンズの宝保里実さんそっくりで、あれ?ほうぼさんがいる・・・と思ってしまった。

直後のtweet

満足度

(4.3/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順8.県立上溝南高校「自分クエスト」

作:菊池遥

あらすじ

「願いが叶う魔法の石を求めて夜の森へ行き、 仲間を探してくださ
い。」言葉が終わり目覚めた場所は数十年前の旧世界だった。 奇妙で不思議な仲間と出会いつつ先に進んでいく幼馴染2人を待つものとは・・・?

感想

既成本扱いだけれど、同校のインストラクターが書いた脚本との事。管理された社会と、日常の世界の対比を描くことで、管理社会の怖さを描く作品・・・と捉えた。食べ物もチューブで摂取するような管理社会の様子は、どこか「THX 1138」だったり、最近の高校演劇だと麻布大学附属高校の「えーあい」や、大分県立三重総合高学「『ねえMAMA…』~羊群に紛れる猫と猿山を見上げる犬~」などを思い出す。

それ故、ロールプレイングゲーム(RPG)に例えられた日常が、戯画的というか、デフォルメされつつも、同時に日常を克明に捉えていないと成立しない話だと思うも。RPGの世界が、小ネタに頼ってしまってちょっと散らかってる感が強いのか、テーマそのものも浮いてしまったように感じる。

LEDテープが安く手に入るようになったが、舞台に敷いて川に見立てたり、天井から吊るして上手く使っているのが印象的。(あれはおそらく、LEDの電飾をホースか何かに通して巻いたものではないか)

直後のtweet

満足度

(3.9/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順9.県立海老名高校「積乱雲の向こう側」

作:坂本華乃〇

あらすじ

課題、 進路、 文化祭準備。 灼熱のグラウンドからは野球部の声がする。 そんな夏休みの高校に集った五人のクラスメイトたち。 だけど……物置きみたいな教室で一体何してるの? 儀式 ? いや、 青春だ。

感想

秀逸な物語だと思った。写真部の生徒は「青春」というお題を与えられて、いい写真の瞬間がないかを探している。でも実際は資料の段ボールが詰まった空き教室で、夏休みの課題の作文を嫌々書いている。窓から見える野球部とその先には積乱雲。この光景が「青春」なのだろうか。「青春とは何か」をじゃんけんでもするかのように「せーの」で言いあうも。誰一人同じ言葉を発しないので客席からは聞き取れない(おそらく意図的に聞き取れ無くしている)。青春とは何か。そんな問いは抱えつつも、でも答えなんてない。そこで過ごした何気ない写真が、それぞれの青春なんだ・・・という物語。

アルプススタンドのはしの方」を、強烈に思い出してしまう。何らかの影響を受けている作品ではないかと思う。あの作品の中で出てくる「青春」とは?…「…進研ゼミやん」のセリフ。青春は進研ゼミのキラキラしたCMみたい・・・なんかじゃ決してなくて、むしろごくありふれた風景の中にある。「アルプススタンド…」では、この方向性では細かく描かれない「青春」。その、ごくごく身近な部分に焦点を当てた作品に思える。

CMみたいにキラキラしていなくても、段ボールばかりの殺風景な教室だとしはも、そこは青春の真っただ中。途中、ちょっとだけ「テーマ語り」の棒立ちになっているのが気になったけれど、物語としてはとても魅力的。青春を回顧している視点なので、顧問創作かな、と思ったのだけれど生徒創作だったのが意外だし、すごいと思った。

「青春」を下敷きに描きつつも、ロッカーから登場したり、テンションが変な先生が登場したりと、テンポよく進む会話劇としても面白い。野球部と積乱雲も、この教室も、そしてこの舞台の額縁(プロセニアム)だって、青春の一コマ。そんな事を思いながら、何層にも受け取れる物語だった。

直後のtweet

満足度

(4.6/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順10.県立住吉高校「昭和みつぱん伝 浅草・橋場二丁目物語」

作:タカハシナオコ

あらすじ

太平洋戦争真っ只中の昭和十八年。 浅草には軍人の家に生まれたお嬢様の巴と、 その友達である女中の勝子がいた。 戦時中、 様々な葛藤を抱えて生きていく少女2人と思い出とみつぱんの物語。

感想

高校演劇ではよくみかける作品のようだけれど、私自身は作品初見。戦時中の2人・・・お嬢様と女中の、会話だけで展開される劇。この会話の後、広島に疎開して原爆で亡くなってしまったお嬢様を回想しつつ語られる。ガチンコ会話劇なのでも、上演するのがすごく難しい作品だと思うが、少し前は「みつぱんブーム」でどの大会でも、「みつぱん」をやっている学校があったのだそう。

ただ今回の上演は、ちょっと焦点が定まり切らない感じ。いろいろな視点で捉える事ができる物語だけれど、多分一番焦点を当てないといけないのは、「身分・家柄が上のお嬢様」と「女中である私」の立場だったり自由度だったりの違いがある点と、その違う立場の2人が「みつぱん」を通じて通い合う事・・・ではないかと思うのだけれど。その「違い」に根差す何か微妙なみのが、今回の上演では一向に見えてこなくて、途中で脚本を脳内展開して、あーそういう事なんだろうなぁ、と再構成して観てしまった。脚本に対する理解と、演技演出が、まだまだつながっていない印象が強かった。

同じシチュエーションで繰り返される会話劇ゆえに、舞台に登場するものには少し気を配りたい。陶器類は仕方ないにしても、時代考証的に、プラスチックのお盆はあの時代に登場するのか疑問。それ程場転が多い訳では無いので、このあたりにこだわって欲しかった。

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満足度

(3.4/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順11.県立茅ケ崎高校・鎌倉学園高校「グッドボーイ~旅立ち」

作:たじまかつひろと演劇部〇◎

あらすじ

気弱な演劇部員の東間は、年下の天才俳優南くんの映画出演が決まり自信喪失。 オタクの顧問北枕の妄想台本にも苦しめられる日々。そんな時、 部室に現れた少年の霊から、なぜか「南を助けてほしい」と依頼される。

感想

私自身、大会で二つの学校が合同で公演するのを観るのは初めて。確か少し前に高校演劇の規定が改定になって、二つの部活が合同で作品を発表することが許されるようになった・・・んだと思う(うろ覚え)。二校合同の公演。

脚本は、演劇部と顧問の創作。死んでしまった兄の幽霊とイケメン高校生俳優の交流の話と。イケメン俳優が所属している演劇部の話。ふたつの話が一緒になった感覚。どうしても二つのお話が分離しているように感じる。演劇部の話は、かなり自虐的なコメディで会場も湧いていたけれど、兄の幽霊の話とはどうしても上手く繋がっていなくて、どうして兄の幽霊が、演劇部員の前に現れたのかがどうにも解せなかった。

エチュード的なものから脚本を起こしたと想像したのだけれど、もしその想像が正しいとして。コメディ部分の創りがかなり秀逸だから、テーマ性を無視してコメディ一直線に遊び尽くして楽しんでしまってもよかったんじゃないかなぁ、という気がする。大会で進む進まないは別にして、見ている側もその方が楽しい。・・・あくまで勝手な想像ではあるものの、どうしてもテーマ性を求められてしまう高校演劇の悲しい性なのかもしれないけれど。二校合同公演で、主役四人でぶっちぎりコメディとか観てみたいなぁ、なんて事を思った

直後のtweet

満足度

(3.8/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順12.法政大学第二高校「エンとデビ」

作:徳武蓮〇

あらすじ

口が悪い天使と優しい悪魔は考え方に違いがあれど、 仲良く一緒に仕事をこなしていた。 しかし、 人間に悪魔のアイテムを拾われたことをきっかけに彼らの関係に変化が・・・。

感想

白っぽい服は着ているものの、到底天使には見えない強気な「エン」と、黒っぽい服は着ているものの全く悪魔には見えない弱気な「デビ」。エンジェルとデビル。本来的な要素とは真逆なものをぶつける事で、「偽善」の怖さというか、人間の負の側面が存在しない事への怖さ、みたいなものを描く。悪口を言わない事が果たして良い事なのだろうか、みたいな事をサラリと言うエン。・・・少し深読み過ぎかもしれないが、ポリティカルコレクトとか、SNSでの炎上とか、とにかく「正しさ」みたいなものが窮屈に求められてしまう現在の世の中。作品としてはコメディ要素強めで説教臭さを極力排しつつ、そんな重めのテーマを知らず知らずに差し込んでくる、興味深い内容だった。

生徒創作のようだけれど、物語にのせて、サラリと怖い事を差し込むように語る脚本が、とても秀逸。どうしても「テーマ」だけに一極集中しがちな脚本が多い高校演劇界だけれど、笑いを散りばめて生徒創作で書き切れるのはすごい(長老役の男性が書いた作品だと思う)。そこに、コミカルな演技もとてもよくコメディとしても面白い。特に「エン」を演じていた女性の、天使なのにチャラチャラしている様子が、たまらなく好きだった。

長老が「三分間だけ待ってやる」って言って、「君をのせて」のルルルで歌うバージョンが流れて、2人が横並びに立ったら、そりゃ次は「バルス」でしょ(笑)。結構早いタイミングでオチに気が付いてしまって、可笑しくて可笑しくて、一人で手を叩いて笑い出してしまった・・・けれど、客席、実際に「バルス」言うまで笑わないのな・・・。鈍いなぁ、と思いつつも、先に笑い出してしまったからちょっと空気感崩してしまってたらごめんなさい。高校演劇で手を叩いて笑ったのはひさしぶり。

直後のtweet

満足度

(4.8/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順13.神奈川大学附属高校「ラフ・ライフ」

作:新堀浩司、潤色:目崎剛

あらすじ

ある日、 優等生の女の子 薫のもとに届いた呼び出しの手紙。 ラブレターかと浮かれる友達を横目に待つ薫の元に現れたのは、 地味な印象の女の子だった。 彼女のお願いが、 平凡で穏やかな薫の生活を大きく変えていく。

感想

「ラフ・ライフ」高校演劇では有名な脚本のひとつ。昨年度の関東大会で、静岡県立三島南高校のバージョンを拝見して、大好きになった作品。脚本の面白さと同時に、とにかく高い演技力が求められる作品だなぁ、というのは思ったのだけれど。今回の神奈川大学附属高校バージョンは、同じ脚本なのに、三島南高校の更に上を行く面白さ。キャラクターが更に際立っているのが良い。主役の四人の掛け合いが、とにかくハマり過ぎてて怖い。楽しくて楽しくて、でも最後はちょっと寂しくて。更に上を行くラフライフを観させてもらった。幸せな時間だった。

本作、劇団たすいちの目崎剛の潤色作品。はりこのとらにある原作を読み返してみたけれど、潤色している個所を判別できなかったので、おそらく出演者に合せた細かい潤色が行われているのではないかと想像した。

二回観た作品共に、神がかったら「ラフ・ライフ」だったので、あまり上手くない・・・要は下手な「ラフ・ライフ」も、観てみたい思いが強くなる。脚本が良いから誰がやっても面白くなる物語・・・とは真逆の作品だと思っているので、その見方が正しいかをちょっと試してみたいなと、すごく邪な考えを持った。

直後のtweet

満足度

(4.8/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

審査結果

情報源1
情報源2

過去の観劇

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