<観劇レポート>第76回 千葉県高等学校演劇研究中央発表会(高校演劇 千葉県県大会)

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第76回 千葉県高等学校演劇研究中央発表会(高校演劇 千葉県県大会)の感想です。

最終更新:2023年11月26日 22時29分

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
名称第76回 千葉県高等学校演劇研究中央発表会(高校演劇 千葉県県大会)
日程2023年11月24日(金)~11月26日(日)
会場千葉県教育会館大ホール
(千葉県教育会館大ホール)

上演演目(観劇したもの)

上演順学校名タイトル日時
6県立船橋芝山高校ガッコの階段物語作:伊藤靖之11/25 12:30-
7東京学館高校言葉の綾原案:小村優貴〇/脚本:神﨑謙臣〇11/25 13:45-
8県立千城台高校語り継ぐ作:福本莉未〇11/25 15:00-
9木更津総合高校賢治エチュード作:油田晃11/25 16:15-
10八千代松陰高校結婚相談所員の手記作:神田沙羅◎11/25 17:30-

〇生徒創作 ◎顧問創作

観劇出来なかった分も含めた上演一覧はこちら

満足度の記載について

私自身の満足度を、個々の演目ごとに記載します。 「CoRich観てきた」に投稿している個人的な満足度と同じ尺度で表現しますが、大会なので順位が付くため、1点きざみの5点満点では表現できないので、小数点まで細かく書いてます。

感想(ネタバレあり)

上演順6.県立船橋芝山高校「ガッコの階段物語」

作:伊藤靖之

感想

"階段部"は、怪談する訳じゃない。階段を登れない人を応援する部活。今日も階段の側で息を潜めて、やって来た人を励ましている。そんな階段部のお話。


作品初見。検索してみると2013年くらいから様々な高校演劇部で上演されている記録が見つかるので、高校演劇ではメジャーな脚本かも知れないが、私自身は作品初見。

制服を着ている階段部の面々。別の学校とおぼしき子が階段を登る・・・のを応援するはずが、何だかうまくいかなくて、部長・副部長を中心にドタバタコメディのように語り出す。最初は学校の部活の話か?と思って観ていたが、気が付くと不条理劇というか、階段=人生のつらい事や挑戦、を応援するという構図になっている。どこか別役実っぽいなぁ、なんて思っていたら、再度世界が展開。階段を登るのは、津波を避けるため。どうやら「階段部」の面々は、津波で亡くなった人に変化している。

「津波」という言葉自体は一度も出て来なかったと思うし、物語に細かい説明があった訳ではないので解釈は様々出来ると思う。全編通して、階段が何か「乗り越えるべき事」という対象として扱われるものの、青春劇、不条理劇、東日本大震災と、振り幅の大きさい、楽しくもしんみり来る作品だった。

基本コミカルに話が進むので、役者のグルーウ感が大事だけれど。きっと普段は仲の良い演劇部なんだろうなぁ、なんてのが演技の背後に透けて見えたような気がして、観ていて楽しかった。

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満足度

(4.0/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順7.東京学館高校「言葉の綾」

原案:小村優貴〇/脚本:神﨑謙臣〇

感想

高校生の海斗。物置を整理していたら、ヤカンからナントカの精が出てきた。3つ願いを叶えてくれるというので、学校の近くにカレー屋を作ってもらって、好きな子に告白する勇気をもらって、末永く幸せに暮らせる・・・事を望んだものの、告白するところで上手くいかない。見かねたナントカの精が時間を巻き戻してやっと告白に成功・・・と思ったら、何とかの精はリーバー、死神だった・・・という話。


ストーリーを魅せるというより、その流れをコミカルに魅せる舞台。客席は使うわ、死神は客イジリ。暗転で舞台装置転換する人々は、口々に何かつぶやいていて笑いを誘う。壁ドンで告白すれば上手くいく・・・とアドバイスされれば、実際に壁ドンしてセットは破れ。どこまでが「ネタ」で、どこまでが「マジ」なのか、その境界線が分からない中、好き放題やりたい放題。とはいえ客席の盛り上がりも高く、純粋に舞台として笑える、面白い作品だった。高校演劇ではこういう「ふざけた」作品はなかなか評価され難いけれど、演者たちが楽しんで客席を盛り上げているのに好感。こういう、ちょっと馬鹿馬鹿しいだけのも演劇だよね。

実際には事前に仕込まれた「ネタ」なのだけれど、それがあたかも今思い付きでやっているかのように魅せる時、かなり精密に仕込まないといけないのだけれど、ここまでやるなら、もっと精密に精密に仕込んだ「アドリブ感」を出せるのではないか?と思う。要は、作りが粗い部分がちょっと目立った印象が、残念だったかなと思った。

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満足度

(4.0/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順8.県立千城台高校「語り継ぐ」

作:福本莉未〇

感想

夏の暑いある日。バス停で学校の課題について愚痴る女子高生3人。一人が、ひいおばあちゃんのタンスから持ち出したボールを草むらに向かって投げたら、そこから突如出てきた、上着はセーラー服だけれど、下はもんぺ姿の別の女子高生。どうやらタイムスリップして現代にやって来た子らしい。かき氷を食べに行ったりする4人。話しているうちに、「勉強できないことが辛い」などと話す。彼女と話すうちに、勉強出来る事のありがたさを噛み締める3人のお話。


冒頭、バス停で繰り広げられる会話がリアルでナチュラル。女子高生の会話だから、3人の等身大を演じているとは言えども、舞台の乗せ方魅せ方が上手いなぁと思う。なかなかテーマっぽいものが見えてこないのだけれど、その分、青春の一コマを切り取る系作品かと期待値が上がるのだけれども。

唐突に登場する「ひいおばあちゃんのボール」。そこから出てくる女子高生。・・・この展開のあたりで、お話しがかなり先の先まで読めてしまう。おそらくこの子はひいおばあちゃんなんだろうなぁ、とか。長崎の話等々、いろいろと話題が出るたびにひいおばあちゃんのネタ明かしの伏線なのかなぁ・・・というのが見えてしまった。

青春を戦争に潰されたひいおばあちゃんの想いを、「語り継ぐ」のタイトルの通り表現しているのはよく分かるのだけれど、やっぱり後半の展開にもう少し演劇的な「ひねり」が欲しい。冒頭10分くらいの会話のナチュラルさで期待値を上げてしまったが故、この展開はちょっと残念だった。

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満足度

(3.5/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順9.木更津総合高校「賢治エチュード」

作:油田晃

感想

大雨の日に河で流されて死んでしまったしまった正裕の声が、勉強中の恭子・久美に聞こえる。教室のゴミ箱が底なしに。飛び込んだらそこは、あの世ではない場所。正裕と再会するが、変なネコ達も働いていた。正裕から明かされる死の真実。面白おかしい猫たちに翻弄されつつ助けられながら、恭子・久美は元の世界に汽車に乗って帰っていく・・・と強引にまとめるとこんなお話。


油田晃の既成本。劇作家協会のデジタルアーカイブで公開されている作品。私的には、ストーリーが全く受け入れられなくて、観ていて辛かった。宮沢賢治の様々な作品をモチーフにして、死んだ正裕の死因を理解するまでの恭子・久美を描いていて、それは要は「銀河鉄道の夜」を主軸にした話なのだろうけれど。

「銀河鉄道の夜」をカムパネルラの死を受け入れる過程の物語と解釈し、その過程をあえて書き下したのが本作・・・だとするなら。その「過程」を銀河の旅に例えて直接的に語らず、感覚的な世界に留めていのに、その意図が伝わる事が賢治の良さなのに・・・、その良さをぶっ壊して、あえて無粋な説明を付けている作品に見える。・・・他にも解釈があるのかもしれないけれど、銀河鉄道の夜が好きな私には少なくともそのような物語に見えて、無粋な事をするなぁ、としか思えなかった。

その物語を、割とゆっくりしたテンポで描くので、私的には、しなくてもいい話をわざわざ長々とされているように見える。猫の事務所の世界から出てきたと思われる、猫たちが魅力的だったけれど、作品全体としては受け入れられなかった。

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満足度

(3/5.0点満点)

★★★★★
★★★★★

上演順10.八千代松陰高校「結婚相談所員の手記」

作:神田沙羅◎

感想

太平洋戦争中実在した、結婚相談所。その結婚相談所員、木村よしのの実在の手記を基に創られた物語。

結婚相談所に来たアヤ子。父は新聞記者だが反戦記事を書いたことがあり近所から疎まれている。紹介された相手は美大の学生で画家の照仁。結婚するならせめてドレスを着たいと願うアヤ子。照仁や友人・家族の協力もあり物資不足の中なんとかドレスを準備するも、取材がることになったがために、結婚相談所の所長にバレて、ドレスを破かれてしまう。撮られた「もんぺ姿」の写真は、新聞記事となり周囲の風当たりは弱くなるも、今度は「こどもを産め」と言われて追い詰められるアヤ子。そんな中、照仁に赤紙が届く。最後の夜、照仁はアヤ子に赤紙が来たことを隠して、破れたドレスを着たアヤ子の絵を描き、それを残して出征していく・・・その様子を、手記の作者、木村よしのの現代からの回想の視点で描いた作品。


すごく良かった。感動した。出征していく兵隊を見送るのは割とよくテーマにされる題材で、最近の高校演劇だと三刀屋高校の「ローカル線に乗って」などが扱っていたなぁと思い出すも。戦時中に存在した「結婚相談所」をモチーフに、女性の視点、あるいは人間尊重の視点に、物語を持ち込んでいる展開が感動と涙を誘ってくる。全体としてスピーディな物語の展開もあり、会場全体が一体になって作品に引き込まれている感覚。

一方、戦時中の悲しい出来事を描いているにもかかわらず、不謹慎ながら、作品としての展開がとても美しい。

出征前日、破れたドレス姿で絵を描く照仁。きっとアヤ子の絵が出てくるのだろう・・・と予想はしてしまうのだけれど、実際に舞台に現れる絵のインパクトが強いのと。その後、木村よしのの回想として出てくる、(完全な)ドレス姿のアヤ子の姿に涙が止まらなくなる。この展開、何かに似ているぞ・・・と思い、ふと映画「タイタニック」のラスト?っぽいかなと思わなくもなかったけれど、感動に変わりなく。(あと、この展開だと、ドレスは都合3着・・・トルソーに飾られてて切れるドレス、絵を描いてもらう時に着るドレス、ラストシーンの完璧なドレス・・・必要なんだろうか?などと思い)

その流れで、ラスト。完全なドレス姿のアヤ子・照仁の前で、「人間ノ価値?????」(私の座席の位置からでは、人に重なって読めなかったがおそらく「人間ノ価値トハナンゾ」ではないかと思う)と太筆で壁に綴るシーン。人間の個の尊厳を奪っていく、戦争であり、世の中の価値観に対して、大きな反抗の叫びの幕切れが、強く印象に残った作品だった。

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満足度

(4.7/5.0点満点)

★★★★★
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審査結果

情報源

過去の観劇

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