<観劇レポート>第58回関東高等学校演劇研究大会-取手会場-

#芝居,#高校演劇

第58回関東高等学校演劇研究大会、取手会場の感想です

最終更新:2023年02月06日 19時38分 (一旦、更新終了)

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
名称第58回関東高等学校演劇研究大会 茨城会場
日程2023年1月28日(土)~1月29日(日)
会場取手市民会館(茨城県)

上演演目

上演順学校名タイトル作者日時
1逗子開成高校三年王国作:奥山諒太郎
潤色:飛塚周
28日9:30~
2東京都立田柄高校たがら ダカラ作:都立田柄高校演劇部28日10:50~
3山梨県立甲府第一高校あゆみ 弘前中央高校Ver.作:柴幸男
潤色:畑澤聖悟・甲府第一高校演劇部
28日12:10~
4川崎市立高津高校左近作:實方誠一郎
潤色:上村そら・岡野みのり
28日14:00~
5千葉県立松戸高校ある海が見える丘の物語作:阿部順28日15:20~
6千葉県立千城台高校ずっとそばにいるよ作:斉藤俊雄28日16:40~
7山梨県立身延高校てんぷらとひだりのて作:塚原政司
潤色:スズキユウジ
(原作 畠田恭子・塚原政司「たんぽぽとかずのこ」より
28日18:00~
8浜松開誠館高校ぼく、今だけ女の子作:福岡大吾29日9:20~
9大成女子高校カッパドル!作:菊池歩美29日10:40~
10茨城県立水海道第一高校そうゆうもん作:渡辺嵩崇29日12:00~
11東京都立千早高校フワフワに未熟作:櫻井ひなた・髙森美羽・樋口璃媛29日13:50~
12静岡県立三島南高校ラフ・ライフ作:新堀浩司
潤色:三島南高校演劇部
29日15:10~
13茨城県立日立第一高校ジャスティマンズ vs アクダマンズ ~the final~作:関千紘29日16:30~

満足度の記載について

私自身の満足度を、個々の演目ごとに記載します。
「CoRich観てきた」に投稿している個人的な満足度と同じ尺度で表現しますが、大会なので順位が付くため、1点きざみの5点満点では表現できないので、小数点まで細かく書いてます。

ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

逗子開成高校「三年王国」

作:奥山諒太郎
潤色:飛塚周

感想

暇な部活、新聞部。偉大な先輩が卒業・大学進学で抜けて「何も出来ない」と思っている3年生。中途半端に所属するカメラ部兼部の男と、二年生。何か大きなことをやりたいのか、時間を潰すための部活なのか、よく分からない人々。そんな中、成績トップで入学してきた意欲溢れる新入部員が入ってくることで、状況が少しずつ動いていく。卒業後も、動き出せない3年生を心配する、大学に進学した先輩。・・・イマイチ本気になれない新聞部の空気を描いた作品。

--

「名前のない何か」に、演劇で名前をつけてもらった感覚。とても微妙なニュアンスを表現している芝居だった。

「本気になり切れない」というか、「本気になり切れないと自分に言い聞かせる」事で、本気になれない理由を誤魔化しているようにさえ見える登場人物たち。その理由が、偉大な先輩なのか、はたまた新入部員なのか。あるいはどちらでもないのか。でも、終始あふれ出てくる雰囲気は、ヌメーっとしたけだるい状況。焦燥感にも似た、でも焦りさえもしていなような、相反する何か。誰にとっても高校生活は、3年間。その中で、後悔しない3年間を送れるのか、という果てしない問い。・・・共感・・・とはちょっと違うのだけれど、色々なものが胸につっかえてくる。

例えるなら、青春という鍋を煮詰めている時に出てくる、アクのようなものを、ひょいとすくい上げて、ちょっと見せてもらって、すぐに鍋に戻された感じ。煮立ってしまった私には、もうそんなアクは、沸騰に隠れて見えない。・・・そんな儚いものをみさせられた、不思議な時間だった。

大きなホールを使えてたけれど、小さな劇場で観たら更に違う発見がありそうだなぁ、とも思う。演劇の創りとして、ヌメーっとしたけだるい空気の描き方が巧み。キャラクターがリアルだからだと思うが、上演順が初日の一番で、大会の公演順では魔のスポットなのに、客席がかなり笑いで湧いてるのがいい。でも私は途中から「アク」の存在に気がついて、むしろ笑えなくなってしまった。笑の中で一人たたずむギャップを、劇中に味わえたのもよかった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.4/5.0点満点)

東京都立田柄高校「たがらダカラ」

作:都立田柄高校演劇部

感想

手話部。田柄高校の生徒は、どうも時間にルーズ。でも「田柄だから」仕方ない。新入部員が来たというのに、今日も遅刻。そこにもう一人、フィリピン人の新入部員。言語の壁で、コミュニケーションが上手くいかないので誤魔化してしまうも。徐々に打ち解けていくお話。

--

高校演劇には、度々「高校生」の設定が登場するけれど。部活として、仲間としてのグルーヴ感、元気さは、この二日間で観た上演の中でも、一・二を争う位に印象的。フィリピンの子とコミュニケーションできない2人の掛け合い、それを受ける部長さん、舞台じゅうをかけめぐる元気さ。とにかく走り回っているものだから、ラストのダンスで衣装が大変そうだったけれど、それでも元気に踊る様はとても印象的だったけれど。

作品のテーマに関して、かなり率直に書かせてもらうと、観終わった後、怒りにも似た感情が襲ってきた。確かに異文化の理解は大変だけれど、このストーリーには、猛烈な生理的拒否反応が起こった。

フィリピン人の子を、ある意味「かわいそうな人のステレオタイプ」として扱っている事が、拒否反応の原因だと思う。簡単に言うと「お涙ちょうだい」の構造、ともいえる。パンフレットを見る限り、役名と役者さんの本名も、同じであるよう。実際に彼女が日本語を学習中だとすると、この劇で何が表現されているのか、彼女自身が理解していたのかな・・・という不安が、強烈に頭をよぎる。

もうひとつは、国際理解って、そんなに単純な事かなぁ、という事。私自身、高校生に国際理解の授業をした事が何度かあるけれど、もう少し現実的な・・・簡単に言うなら「理解できない事を前提に、どうするのか、何ができるのか」を教える。劇中、姉が結婚して寂しい・・・という話が出るが、理解できない前提で、何を求めているのか・・・みたいな事は考えたのかな、と思うと、やるせない思考のループにはまってしまう。

それもこれも、全部含めて「たがらダカラ」と言われてしまうと、何も言えないけれど。観終わった後、怒りの感情をぬぐえなかったのは確か。かなり辛口な感想なのだけれど、同種の感想や指摘を他に見かけなかったこともあり、あえて記載しておく。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(3.0/5.0点満点)

山梨県立甲府第一高校「あゆみ 弘前中央高校Ver.」

作:柴幸男
潤色:畑澤聖悟・甲府第一高校演劇部

感想

私にとっては4度目くらいの「あゆみ」。お話は知っている。これまでの「あゆみ」との違いと、どんな表現をしてくるのかなぁ、というのが気になるポイント。その視点で書き下していくと。

「弘前中央高校Ver.」というのは初めて聞いた。ただ、これまで観た「あゆみ」と大きな違いは感じなかった。細かい所だったり、冒頭のアイスブレイク的な会話だったりが違うのかな、と思う。

冒頭、舞台の裏側の、袖の空間、コンクリートの壁、取手市民会館の裏が少し見えたのが効果的。「あゆみ」語りがはじまると、袖幕が出てきて空間が絞られる。現実の世界とお話の世界の区別が、シンプルだけれど表現されているのが巧み。ホールによって出来ることと、出来ない事がありそうだから、大会を重ね、会場が変わるごとに、演出は変わってきたのかなぁ、なんて事を考える。

上下(かみしも)のシンクロ・・・次の演者グループに引き継がれるときの役者の動きのシンクロ・・・と、歩く速度が、しっかりとホールの間口に合わせた形で一定なのが、とても奇麗。私がこれまで観た「あゆみ」は、小さな空間で演じられているものばかりで、大きいホールで観るのは初めて。この間口で、あそこまでそろっていると声を上げたくなるくらいにキレイ。途中からふと、その上下の動きのシンクロが、映写機で映す映像の"フィルムがズレた時に見える光景"に見えてきた(伝わるかな・・・)。そう考え出すと、「ひとりの女性の人生を描いた映画の上映」のように見えて、自分の頭の中で勝手に、映写機がカタカタ回る音が再生され始めた。その事に気がついたとき、あーなんかすごいなぁ、と浸りきっているの自分を発見した。

好みの問題だけれど、これまで観てきた中の「あゆみ」でのラストは、殆どカットアウト。フェードで終わった時は、はじめてのケースでびっくりしたけれど、むむむ、と思う。やっぱりラストは、私はカット・アウトが好き。

・・・などと、これまでの「あゆみ」と比較しつつも、ラストの走馬灯の下りでは自然と涙が出てきてしまう。総じて、いい「あゆみ」を観させてもらったなぁ、としんみりとなった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.4/5.0点満点)

川崎市立高津高校「左近」

作:實方誠一郎
潤色:上村そら・岡野みのり

感想

信長は、既にモノノケに支配されている。その事を知った側近の森蘭丸は、ふとしたことから、記憶喪失になり、信長の命で自分が殺してきた人々の生き残りの落人?の集落で「左近」と名付けられる。気がつけば信長の悪行を悔い、知り合った落人達と共に暮らすことを誓うが。そこに追手としてやって来た光秀。だが事情を知った光秀は、森蘭丸=左近と、信長を支配したモノノケと闘う事を決意する・・・というお話。

--

カッコよかった!。最高だった!。殺陣、モノノケの女の子二人のあのオドロオドロシイ感じ、落人?な村の人々、左近、秀吉、光秀、音響!、照明!、装置!。みんなみんな、カッコイイ。楽しい。会場との一体感がすごい。終わって客電ついたとき、あそこまで「どよんだ」上演は、なかった気がする。

私の観てきた芝居の範疇で言えば、最近だと、壱劇屋・東京支部の竹村晋太朗が創るような芝居が、近い表現かも知れない。古くは、劇団☆新感線の、いのうえひでのりのような芝居。高校演劇に詳しい訳じゃないので、最近はこのタイプの作品が多いのかな・・・とも思ったけれど、情報収集してみた限りやっぱりそんな事はなさそう。ここまでの完成度で、この手の作品を作り上げるのは、珍しい事のようだ。

要は、いわゆる「エンタメ系の芝居」に属するものだと思う。(2.5次元、って言ってた人もいるけれど、ちょっと違う気もする)。どうしても「テーマ」とか、「高校生らしい」を求められる高校演劇だけれど、なんとな~くな雰囲気と、物知り顔の審査員が決めてきた傾向。要は、そんなもんくそくらえ。とにかく楽しい芝居、観てて痛快な芝居をやる。しかも、大会でやる。このクオリティでやる。その心意気というか、作る側の創作の楽しみ方が、とにかくすごいし、大好き。

制約の多い大会。テクリハ間に合っただろうか。あれだけホリの色をバンバン変えて。殺陣のつばぜり合いの音、シーン出だしの爆音からの音下げのバランス。他・・・挙げればキリないけれど。とにかくキューがいくつあったのかなぁ、とか、途中から気になり出す(150くらい?)。大会でこれをやり切るのは凄すぎる。そんな事を考え出すと、もう物語と、作っている高校生と、両方の間でいろんな感情が渦巻いてくる。

そして開演50分目くらい、本能寺に攻め込むところで、涙する程のシーンじゃないにも関わらず、自然ともう涙が止まらなくなった。ツーって自然に流れ落ちてくる。「高津高校演劇部、おぬしら、やりおったな!」って心の中で叫んでる。ラスト、客席後方から3人が左近を呼ぶために出てきて振り向いたとき、私も人に見せれないひどい顔をしてたと思う。すごい。すごい。興奮し切った。泣いた。そんな60分間だった。

客電ついた後、泣いた顔を整えたいので、とりあえずトイレに駆け込んだら、客席から登場した3人?が楽屋に引き払うのと、偶然すれ違ってしまった。やり切った顔で大泣きしてて。それを見て私の方も、感情を整えるのが大変だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.7/5.0点満点)

千葉県立松戸高校「ある海が見える丘の物語」

作:阿部順

感想

学校の先生。うつ病になって心療内科に通う。そこの先生が話してくれたのは、1980年代前後。北校と南校が争っていた、街の駄菓子屋の話。毎週、その話を聞きたくて通ううちに、その情景がありありと現れてくる。しかし、その診療内科の先生は、患者に放火されて殺されてしまう。話してもらった町を実際に訪れて、その思いを鮮明にしていくお話。

--

2020年に観た「ゴリラゴリラゴリラ」が好きで。2度目の松戸高校。巧みな、よく作られた演劇だった。役者さんは上手い。舞台セットも完璧。演劇のつくりは、さすがっていう感じで。不良のNo.2?の子、生徒会長、駄菓子屋の女主人。みんなキャラクターがしっかりと浮かび上がってくる。空間としては、いつまでも観ていたい、この丘に行ってみたい。そんな、よくできた、演劇だったけれど。

困ったことに、観ていて、何の感情も湧いてこなかった。「ふ~ん」という感じ。おそらく心療内科の件は、大阪クリニック放火事件をモチーフにしているように思うし、受診するのが「先生」なので、作者の阿部順の何らかの体験、という風にも考えられるかもしれない。テーマだったり、伝えたいことは受け取った気がするのだけれど、特に感情が湧いてこない。

ひょっとしたら、特定の年代の人には刺さる話だったのか。あるいは、高校生には刺さる話だったのか・・・どちらも私には想像できないのだけれど。情景描写、人物描写だけでなくて、そこから何がしかの感情が欲しい。その感情に、私は全くたどり着くことができない作品だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.0/5.0点満点)

千葉県立千城台高校「ずっとそばにいるよ」

作:斉藤俊雄

感想

姉が、たまたま演劇部の顧問。でも姉は事故で死んでしまった。代わりの顧問の先生は来たけれど、イマイチのらない。でも、私には姉の幽霊が見えて、演劇部を見守ってくれている。そんな中、大会に向けて演技ができない子を、役者から外そう、という話が部長から出る。でも、それは顧問だった姉が本当に望んでいた事だろうか。劇中劇に「特攻に行く時に、無理矢理志願させられた」場面を交えながら、同調圧力と、本当に必要なものを問うお話。

--

てっきり、生徒創作の脚本かと思ったが、調べてみると既成本(パンフレットにも書かれていた)。斉藤俊雄が中学生向けに書いたもの。加えて、鴻上尚史の「不死身の特攻兵」を着想源にしているかなと思ったけれど、こちらの脚本の方が書かれたのが古く、特に関係はいかもしれない。直後のTweetの感想は、ちょっと的外れだったかもしれない。

演劇としては、ちょっと粗削りな部分が目立ったかな、という感覚。特に前半、お姉さんと一緒にいる、というのが状況がつかめるまで少し時間がかかったし、姉が顧問・・・というのも、設定にしては出来過ぎてるかな、とも思った。あまり印象に残らず、状況認識だけして、さらさらと流してみていたような感覚。

後半、状況がつかめてくると。一気にボルテージが上がってくる。「大会に出るため」に何を犠牲にするのか。演技ができない子を役から降ろす、という展開。・・・今回の大会2日間で、客席にこれほど静寂な瞬間が生まれた事はなかったと思う。客席から一気に「血の気が引く」感覚。今まさに、高校演劇の関東大会。・・・役を降ろす、なんて極端でなくても、小さく不幸な決断をたくさん繰り返して、どの学校もこの場に集まっている・・・っていう感覚が充満した・・・ように私には見えた。大会の、この客席だからこそ伝わる話・・・っていうのはもちろんあるのだけれど、それでも、この静寂があまりに冷ややかで、背筋がゾッとする。虚構の中にリアル、しかも、かなり生々しいリアルが、突然出てくるのが強烈に印象に残る。

生徒創作だと思っていたのもあって、どうして姉を幽霊にしたのか、その事が気になって、知りたくなる。上記の斉藤俊雄の解説ページに作者なりの意図が書かれているものの。生徒創作だと思った間違った解釈・・・だと、私には「欲しかった何か」「自力では手に入らない何か」「切望する何か」の象徴ではないか、と思えて仕方ない。・・・それが何かは、ここにはあえて書かないけれど。・・・まぁ、完全に想像なので、客席のどれくらいが、同じ誤った解釈をしたかは分からない。

ただ、あの血の気の引いた静寂と、(誤解とはいえ)狂おしいほどまでの欲望。その2つを同時に感じてしまい、いろんなものをダブらせてしまって、ラストは涙が止まらなかった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.4/5.0点満点)

山梨県立身延高校「てんぷらとひだりのて」

作:塚原政司
潤色:スズキユウジ
(原作 畠田恭子・塚原政司「たんぽぽとかずのこ」より

感想

1999年夏。BSで放送された、高校演劇全国大会の「たんぽぽとかずのこ」(以下「たんぽぽ…」)を見て、衝撃を受けた。たぶん、生涯観た演劇の上位10本に入る作品。以来、セリフを覚えるほど見返している作品。アナザーバージョン・・・とでもいうのか、たんぽぽ…をリライトした作品があるのは知ってたけれど、観るのは初めて。個人的には、とても期待が高まる作品。

たんぽぽ…との違いという点で書いておくと、登場人物は3人のみ。ソフトボールではなく、バトミントン部の智子、裕子、そしてなりゆきで手伝いに来た、文芸部の秋子。かずのこ・引っ越し屋さん・妹は「てんぷらとひだりのて」には出てこないが、秋子が、そのすべての役のエッセンスを演じているようにも見える。

引っ越しやさんが荷物を取りにくるまでの1時間。学校を辞めて、寮を出る智子。友人裕子と、ちょっと部外者の秋子が織りなす、ぎこちない会話から、いろんな事が、少しだけ、見えてくるお話。

智子、裕子がどんな仲だったんだろう、みたいな事は、会話に出てくる断片的な事実からしか分からない。殆ど部外者の秋子が会話に入ってくるも、やっぱりそこから見えてくるのは断片的。「大事なお別れ」と「部外者がいてビミョー」な空気が同居しつつ、ちらちら見える、痛いもの。ラスト、てっきり「からすみ」「ちくわ」からして、飲酒が原因だろうと思っていたら、手首の傷の話。でも、明確には何も語られない。バド部の友達が、何故来ないのかも分からない。想像するしかない。小さな会話から、その、背後にある、大きな何かを、想像する。観客が、想像に旅立つまでの切り取られた1時間を手渡される印象。

たんぽぽ…同様、作品は基本コミカルで、笑いが多い芝居ではあるのだけれど、人数が減ったこともあって、とても濃い人間の会話の「からみあい」が描かれる。演じられていた方が巧み。高校生の役だけれど、しっかりと「演技」の中から、傍からは完全には分からない、3人の「言葉にならない何か」が演じられているのがいい。背後に何があったのか、その解釈は概ね観客に委ねられている。だからこそきっと、たんぽぽ…の時と同じように、時折この3人の事を、生活の中でふと思い出しそう。そんな余韻を残す舞台だった。

Twitterで「どん兵衛は本当に食べているのか?」が話題になっていたけれど。私のいた11列目の席には、匂いが漂ってきたし、多分本当に食べていたのではないかと思うのだが。(あるいは、私の脳が、演技で作られた架空の「どん兵衛の匂い」を感じたのかも。笑)

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.7/5.0点満点)

浜松開誠館高校「ぼく、今だけ女の子」

作:福岡大吾

感想

コロナ?発生で、男子トイレ消毒中。急ぎの男子は、断ったうえで女子トイレを使いなさい・・・と全校放送。そんな状況だけど、やっぱり女子トイレ入るの、なんか、ツライ。でも漏れそうで、ヤバイ。「入りますよー」と入ったら、女子と遭遇。驚かれちゃうけれど、更に別の女子が入ってきて、なりゆきで二人でトイレのブースに入って、息を潜めてまう・・・。な、シチュエーションコメディと。そこで出会った男女の恋。そしてトイレは「やりたい事の避難場所だった」・・・な物語。

--

前半の「男子が女子トイレを使う」話と、後半、「恋の話」「やりたい事」や「小説を笑いものにした事の後悔」の話は、正直なところ別々、って考えた方がしっくりくる。お話としては分離しちゃっているのは否めない。後半は、淡い恋と、夢へのお話。・・・どうしてもテーマらしいものを盛り込みたくなってしまう高校演劇の習性的・・・というか、高校演劇らしい分離の仕方。思えば、昨年の全国の最優秀の、「きょうは塾に行くふりをして」も、同じ構造だった気もする。

それにしても、それにしても。前半のトイレガマン話があまりにも面白く、もうそこだけでお腹いっぱい。たまたま、私の隣に座っていた人も、同じような40代のオジサンだったけれど(全然知らない人)、2人で腹かかえて笑い転げて座席が揺れ、同じ列の人すみません、って感じ。それくらい、笑い転げてた。いや私は、冒頭舞台に上がったあたりで、ひょっとしてトイレガマンしてるんじゃね、って気がついてクスクス笑ってしまって、その時点ではちょっとKYだったけれど。演じるには、ちょっと恥ずかしい要素もある話だけれど、そんなそぶりは全然感じず。主役の子以外にも出てくる、トイレガマンの2人も印象的で、ナイス・ガマン。

後半。ブースに入った二人の淡い恋と、小説をバカにした後悔。ここまでで個々のキャラクターに惹きつけ切られているので、テーマ語りはちょっと唐突な感じもあるけれど、思いのほか自然と頭に入ってくる。・・・後半に関しては賛否両論ありそうだけれど、大会向け演目としては、とてもバランスが良かったのかなぁ、とも思った。

そにしても、このシチュエーションはどう思いついたんだろう。実際にあった事なのかな。物語の語られる順番として、男子が女子トイレに入らなきゃいけない理由については、劇の途中までは分からない。それも「消毒中」の一言のみ。・・・おそらくこれはコロナ?。否、みんな一気にコロナまで連想したに違いない、というのが正しいのか。とはいえ劇中、コロナ、という言葉は一回も出て来なかったと思うけれど、ある意味、その想像力に訴える、逆手に取ったシチュエーション構成に感服だった。

ちなみに「漏れそう」をテーマにした芝居。以前「にんげんのそんげん-腹痛行進曲-」を観た時、人生で最初で最後の「漏れ芝居」だと思ったけれど(笑)。今回笑って、よくよく考えると、「漏れそう」っていうテーマは意外と、全人類が漏れなく共感できるテーマだよなぁと思う。余韻を楽しみながら、そんな考えが頭の片隅に、よしなしごととして漏れ出してきた作品だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.9/5.0点満点)

大成女子高校「カッパドル!」

作:菊池歩美

感想

佐賀?のカッパ、田中ななかは、上京したい。皿を隠して人間を装って浅草に行ったら、アイドルの「リコピン」の路上ライブを目撃してしまう。気がつくと、3人組アイドルを結成して、浅草のお祭りでデビューすることになたものの。雑誌の記者が、アイドルの正体がカッパであることを嗅ぎ付けてやってくる。コンサート当日に、皿が乾いて応急処置したらその事にがバレ、SNSは炎上するも。それでも、カッパでも、アイドル頑張る・・・なお話。

--

観ている側がテーマを語ると、とても野暮になっちゃうよなぁ。「カッパ」っていうのは、要は「コンプレックス」の象徴で。コンプレックスがあっても、SNSで馬鹿にされても、信じてる事、やりたい事を、やるのだー!という、あまねく人への「応援歌」。・・・なんか、テーマとして語ってしまうと、ちょっと恥ずかしい類のものだけど。

そんな構造をしっかりと下敷きにしつつも、高校演劇独特のお説教臭さを粉砕して、とにかくエネルギーで突っ走る。アイドルのライブ、オタ芸。歌い踊りながら、スピーディにエネルギッシュに、楽しく物語を紡ぐ。誰が見ても分かるお話だし楽しいから、会場からも、自然に拍手・手拍子が沸き起こる。1日目の「左近」に続いて、いわゆる「エンタメ系」に分類されそうだけれど、楽しませるためのクオリティが高いなぁ、というのを、ワクワクしながら感じた芝居。

そして何よりも、キャラクターの立ち方が、とても印象的。主役のアイドル3人はもちろん、どちらかというと脇を固める、リーゼントのDJや、おばあちゃん、カメラの人まで。出てきて一瞬でキャラを理解させて記憶させる。ラスト、全員でなだれ込んで踊る時にも、終演後にも、登場人物を思い出せるインパクト。エネルギーだけじゃなくて、キャラクターと、そのグルーヴ感も最高。とはいえ感想は、楽しかったなー、なのだけれど。それだけでも十分な、いい舞台だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.4/5.0点満点)

茨城県立水海道第一高校「そうゆうもん」

作:渡辺嵩崇

感想

親がめんどくせぇ。今日も忘れた弁当届けに来た・・・と思ったら、僕、交通事故で死んじゃった。雑な対応の天使に、母親に別れを言わせてくれと頼んで。戻った先は・・・何故か父親の体。目の前に、高校生の母親。天使、マジ勘弁。でも彼女=母はいろいろ悩んでて、気がつくと、父親の体を借りた僕との距離がどんどん距離が縮まっていく。父の体を借りて、母に何というのか・・・なお話。

--

どこかで聞いた事あるような、でも面白い要素が詰まった作品。死んで天使に逢う・・・あの態度の天使は、ちょっと古いけれど三谷幸喜の「天国から北へ3キロ」みたいだし(多分、他にもこういう話はたくさんある)。若い頃の母親に逢う話は、それこそ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。天使の雑さはかなり笑いを取ってたけれど、主人公と、お母さん役の演技も、かなり緻密で上手い。お母さん、高校生になって出てきたとき、同じ人だと思わずびっくりした(会場から笑いが起きてた)。

いろいろと「面白い要素」はあるのだけれど、割と独立してしまった印象もある。

お母さんの誕生日プレゼントに、何を渡すか・・・ってのが、私の中ではとても刺さった。「ぼくらの七日間戦争」を渡すのは、主人公の優しさなのか、あるいは、幼さなのか。母(=おばあちゃん)に反抗している事への応援と、自分を理解して欲しい、という思いと。その両方が詰まっている・・・のかもしれない。いろいろ思いを巡らすも、なぜその本なのかが、やっぱりイマイチわからない。主人公が、「この本が好き」と天使に語るだけでは、母に渡す要素としては弱くて、「自分の好きなものをプレゼントする幼さ」にも見えてしまう。想像を掻き立ててくるが故に、もっと突っ込んで、理由だけ描いてくれないかなぁ、と、観終わった後にしきりに考えてしまう。

他にも、母が家を空けている理由とか、天使の素行の理由とか、いろいろと知りたい事があったけれど、描かれていないというか、情報ももらえなかった感覚。私は、頭の中で、面白い要素を勝手に繋げて楽しんでいた、のかもしれない。面白い要素は揃ってるからが、もう少し理由をもって、いろいろとつながればいいのにと思った。

あまり関係ないけれど、私は三谷幸喜の「天国から北へ3キロ」が大好き。ちょっと尊大でマヌケな天使が、同作での粟根まことの天使にかなりダブった。冒頭、ひょっとしたら「天国…」からのオマージュかと思ったくらい。自分の記憶用のメモ。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.0/5.0点満点)

東京都立千早高校「フワフワに未熟」

作:櫻井ひなた・髙森美羽・樋口璃媛

感想

昨年の「高校演劇サミット」でも拝見していて、2度目の観劇。作品は、基本大きな変更はなかったと思う。1度観てるので、2度目の印象を中心に、細切れに書いてみる。

アゴラ劇場の小さな空間と、今回の取手市民会館。だいぶ広さが違うのでどうなるのか・・・と思ったけれと、コの字に配置される椅子の空間的な距離は、おそらくアゴラで演じた時と変わっていないのではないか、と思う。・・・というより、彼女たちの語りの迫力が、十分に空間を埋めて勝っているので、舞台全体を使い切ろうみたいな、小手先の考慮を必要としなくなっているように思う。納得だけれど意外。

サミットの時は、40代以上のオジサンが多い客席。観た時の感想にも書いたけれど、演者が「見透かした」・・・客からすると「見透かされた」ような印象の、客席の雰囲気だった。一方、大会2日目の午後一番の上演。既に上演を終えた高校生も多くいたので、刺さるポイントや、受け取る感情が、全然違うように思う。高校生の「共感」。しかも「それ舞台で言っちゃう?」な共感。要は、表現するかしないかは別として、女子学生の中には、そういう感覚が存在するんだなー、という。アゴラの客席では気付けなかった、でも当たり前の事への「気づき」があった。

アゴラで観た時の感想、自分では、あまり的を射抜く、いい感想を書けていないと思っていた。面白いけれど、どう扱ったらいいのかよく分からない、という状況。そんな時Twitterで「フェミニスト的にも重大な作品では?」という感想を見かけて、印象に残る。生々しいのに、皮肉とか恨み言でもない。これってどういう感覚なんだろう。・・・強引に類似するものを探してみると。NHKの「ドキュメント72時間」を、女子の多い高校(生)をテーマにして、ハイテンポでやったらこうなるのかな・・・とかを思う。要は、今の世相、生活、風俗を、ある種完璧に切り取っているのかもしれない。ただ、それを彼女たちが、意図的にやっているのかは、実はよく分からない。その「よく分からない」ところが、どこか魅力にもなっている。

終演後、前に座ってた男子高校生が、「スカートが短い」とボソッと呟いた。前から8列目までの客席は、舞台を見上げる位置で観る事になる。スカートが短い。率直な感想として、私もそう思う。中に"見られてもいいインナー"を履いているけれど、それにしても男子にとっては、気が散って仕方ないくらい。「見透かされた」っていうのは、正にそういう事だけれど。演じられる彼女たちの側からすると「見透かしもしたいし、基本的にキモい」っていう感情があるように思う。・・・だから何だ、と言われればそうなんだけれど、この訳わからない演劇を言葉で切り取る時、「スカートが短い」って感覚を無視すると、かなり片手落ちなんじゃないかと気がつく。同じ男性として、「スカート短い」って素直なつぶやきをしてる男子高校生に、思わず拍手を送りたくなった。

そういえば、アゴラで観た時に印象的だった台詞が、ひとつなくなっていたように思う。単に飛ばしたのか、カットしたのかは不明。私は、とても生々しくて、好きだったんだけれど。全国大会では、映像に残るかもだし、過激過ぎてさすがに復活はないかな(笑)。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.8/5.0点満点)

静岡県立三島南高校「ラフ・ライフ」

作:新堀浩司
潤色:三島南高校演劇部

感想

屋上に呼び出された薫。告白かと思えば、昨年のクラスメイト希が、「文化祭で漫才をやろう」と誘ってくる。紆余曲折あるも、漫才をすることに。希は家庭崩壊寸前で、お笑い好きだった父・母を文化祭によんで、家族をつなぎ止めようとしていた。2人で練習をはじめるも、でもその思いは叶わず、学園祭前に両親は離婚。希は引っ越すことになる。発表の場をなくしたふたり。だがその場にいる友達の前で、漫才を披露するお話。

--

はりこのトラの穴によると、2014年初演。高校演劇では有名な脚本らしく、上演演目としてよく見かける。私にとっては初見の作品。

脚本的には、ちょっとご都合主義な部分がある気がする。「両親をつなぎとめるために、漫才をする」っていうのは、ちょっと「ん?」ってなる設定。なんか、どこかで聞いた事がある・・・ような気もする(思い出せない)。まぁ既成本だし、その部分は目をつぶるとしても。

ストーリーの不自然な部分を、楽々と粉砕するに十分な演技力。普通に芝居として面白い。演技がとても自然だけれど、何だか笑いがこみあげてくる会話。5人のセリフの掛け合いを観ているだけで、楽しくて仕方ない。どちらかというとストーリーを重視して観てしまう私にとって、こういうのは珍しい。楽しい演劇、会話劇、という満足感が高い。設定はともかく、基の脚本の会話が自然なのも、当然大きな要因だとは思う。

途中、ある程度お話が分かって余裕が出来てきたところで、会話の相手方・・・セリフが無い方を見つめる余裕が出てくる。生徒副会長の受けの演技が、最高に好き。結局は、屋上の空気感、会話の空気感が、演技で的確に立ちあがり切っているんだろうなぁ。あらためて基の脚本を読むと、場所は「教室」となっている。この上演では「屋上」にしているのも、場所の空気感と、ホールの天井の高さを考えると、むしろ開放的で効果的。楽しかったなぁ、の1本だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.9/5.0点満点)

茨城県立日立第一高校「ジャスティマンズ vs アクダマンズ ~the final~」

作:関千紘

感想

演劇部の脚本会議。今年のタイトルは「ジャスティマンズ vs アクダマンズ」で勧善懲悪モノ。ただイマイチ、内容が煮詰まらない。そんな時、部長のがいつも18時で練習ほっぼり出して帰ってしまったり。それぞれの部員が、家庭の事情を抱えている様子。そんな事をお互いに話して自己開示し出すと、「正義と悪」の対決なんて本当はない事に気がつく。その内容を舞台に盛り込んで、脚本創作は続いていく・・・というお話。

--

最初から「the final」とは何事だ、と観る人は思ったと思う(笑)。そんなタイトルへのツッコミもあって期待したけれど、ちょっと肩透かしをくらったかな、という感触。「勧善懲悪なんて、ない」という話と、「部員はそれぞれの家庭の事情を抱えている」っていうのが、上手くつながってこない感じ。そこに、脚本会議でのお遊びエチュードもあり、3つのバラバラな話をされているように感じる。

「絶対的な正義なんて、この世には存在しない」っていうのは、様々な物語で語られているテーマ。ラストに近い所で、テーマそのまんまの台詞が、説明として出てきてしまう。テーマは語らなくても、感じることで伝わるようにしないと、どうしてもお説教のように聞こえてしまうのが残念。

演劇部の部室が、割とリアリティあり。私の高校の頃も、あんなクリーム色の薄い壁だったなぁ。過去の公演ポスター、ひょっとしたら本当に、日立第一高校の過去公演のものなんじゃなかろうかと、勝手に想像。「チンゲンサイ」ってなんやねん(笑)。中心にあった「カンパネルラのいない夜に」の公演ポスターが奇麗で気になる。

音響のオペレーションを、舞台上でしていた。特に、ラスト大声で歌う場面の臨場感を求めて・・・なのか、あるいは単にオペレーションの人数が足りなかったのか、、、。理由は分からなかったけれど。こういう方法もあるんだなぁ、というのが純粋に面白かったし、ラストシーンに対しては効果的だったように思う。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(3.5/5.0点満点)

審査結果

最優秀賞
都立千早 (全国大会)

優秀賞
逗子開成
都立田柄
県立松戸 (春フェス)
水海道第一

創作脚本賞
都立田柄

情報源

過去の観劇

このカテゴリーの記事

舞台#芝居,#高校演劇