<観劇レポート>第33回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演(演劇)

#芝居,#高校演劇

【ネタバレ分離】第33回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演の演劇公演の感想です

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
名称第33回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演
日程2022年8月27日(土)~8月28日(日)
会場国立劇場 大劇場
(東京都)

上演演目

上演順*学校名*タイトル*作者*日時
1兵庫県立伊丹高等学校晴れの日、曇り通り雨古賀はなを27日13:30頃~
2青森県立青森中央高等学校俺とマリコと終わらない昼休み畑澤聖悟27日14:45頃~
3東京都立千歳丘高等学校ギャラクシー・ナイトスクール・ハイキング中込真緒28日13:20頃~
4大谷高等学校なんてまてき水谷紗良・髙杉学28日14:40頃~
5愛媛県立松山東高等学校きょうは塾に行くふりをして越智優、曽我部マコト28日15:50頃~

満足度の記載について

私自身の満足度を、個々の演目ごとに記載します。
「CoRich観てきた」に投稿している個人的な満足度と同じ尺度で表現します。

ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

1.兵庫県立伊丹高等学校「晴れの日、曇り通り雨」

作:古賀はなを

感想

総文でも観て、2度目の観劇。今回は下手寄りの割と前方席で見たので、役者さんの表情までしっかりと確認する事が出来た。ゆっくりと、しんみりと。でも友達って本当に必要なのか・・・という、共感できるけど語られない命題。いつから友達がいないと「おかしな」事になってしまったのか。日陰に置かれる植物たちと、ビオトープの「人口の奇妙さ」をメタファーとして引き合いに出しながらなされる会話が、後半になればなるほど、うねり上げてくる感覚。多様性という割には、多様なことが認められない現状。いろいろな事を考えた。
再度観て確信したのは、この芝居、小劇場の小さな劇場で、もっともっと役者さんの近くで、息を感じながら観てみたいという事。きっとこの脚本、今後あちこちで上演される事になると思う。できれば小さな空間で上演したものを観たい。小さな空間で展開されたときの、濃密な時間・・・みたいなものを体験したい。そんな事を強く確信した、2度目の観劇だった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.5/5.0点満点)

2.青森県立青森中央高等学校「俺とマリコと終わらない昼休み」

作:畑澤聖悟

感想

青森の学校。昼休みに入ったばかりの教室。何気ない昼休みのやり取りの後、学校に核ミサイルが落ちてくる。その直後に・・・昼休みに入ったばかりの教室。8分間。同じ時間を何度も何度も繰り返している、タイムリープが起こっている。そんな中、ループを認識できているのは、転校して来たばかりのガクト(?うろ覚え)と、リコ。ガクトは繰り返される8分間を利用して、一人ひとりから事情を聴き出して、何とかその場から逃げるか、何かが変わる可能性を模索している。しかしリコは、実はクラス内でいじめられていて、むしろ核ミサイルが来て、辛い日常が終わればいいのに、と願う。ガクトのあがきで、ミサイルが落ちない現実は来るのか・・・という物語。
総文で観れなかった作品。終わった後、タイムリープの話だというのは、Twitterで伝わってきたのだけれど。加えてみんなが「おっぱい」「おっぱい」と言ってる。ヤングジャンプ(?)の表紙のグラビアアイドルを「おっぱい!」と言って面白がってる男子たち。高校演劇史上、ここまで「おっぱい」「おっぱい」言ってる演劇は他にないような気がする。タイムリープの展開、ただ観ているだけでも面白いのだけれど、加えて「おっぱい」がいっぱい。
そこに重ねられているのが、いじめられる辛さの中での「学校なんて、爆破してなくなればいいのに」みたいな思い。タイムリープでこの世界から抜け出せないリコにとっては、延々と続くいじめのが、ミサイルで壊れる。それを望むようで、何もできないようで。切実なのに割り切れない複雑な気持ち。その中に入ってくる、ガクト。彼は何とかあがいて、核爆弾を止めるような「変化」を起こそうとする。いじめられた経験を持つガクト。ほんの少しの変化から、何かは変わるはずだ、という真っすぐな想い。(マ)リコも、いじめの辛さと痛さを抱えつつ、少しずつ変化していく。
いじめられる事の辛さや、些細な事から周りを変えようとする勇気。ウクライナの戦争まで。多層で広い範囲にメタファーが効いている。日常と世界と。両方を行ったり来たりと、想いを馳せる。そんな作品に涙をしながら、深い想いを受け取ることが出来た。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.8/5.0点満点)

3.東京都立千歳丘高等学校「ギャラクシー・ナイトスクール・ハイキング」

作:中込真緒

感想

宇宙人と共生している時代。転校してきた宇宙人をつれて学校を案内する、生徒会長と。生徒会長も校長の母親と闘っていて・・・というお話。
イマイチお話の要点がつかめず、手に合わなかった。宇宙人をモチーフにしている作品は、それこそ最近の高校演劇だと「この星はブルー」とか、他にもいくつか思い浮かぶのだけれど。設定が上手く飲み込めなかったのと、テーマをセリフで語ってしまっているシーンが多いのが、私には合わなかった。人数の少ない演劇部で大変そうだったけれど、出来れば場転に工夫が欲しいところ。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(3/5.0点満点)

4.大谷高等学校「なんてまてき」

作:水谷紗良・髙杉学

感想

総文で観て、2度目の観劇。物語の構造を知ってみると、もう冒頭からチロチロと涙が止まらない。そして、後半は大泣きして観てた。涙腺決壊の一歩手前まで連れていかれた。すごい作品だった。
なかのZEROのセリフの通りの悪さはいろいろな人が指摘している所だったけれど、セリフが聞き取れなかった故、物語の細かい所が理解できなかった部分が多かった。例えば、電話して助けてもらったおばあちゃんは、一体どういう関係にある人なのか、実は理解していなかった(隣人のおばあちゃんだったのか)。途中のイマジナリー・フレンドたちのコミカルな演技とセリフもバッチリと聞こえ、関西弁に誘われて笑うんだけれど、やっぱり半泣き。たまたま「夜の女王」を真正面から見る位置に座ったので、彼女の冷淡だけれど微妙な表情も読み取れた。
この演劇、「どこかに連れていかれる」という類の演劇であるように思う。今まで観たどんな演劇でも味わった事の無い、全然違う世界に連れていかれてしまう感覚。・・・総文で観た時にも、そんなツイートをしていたけれど。ほんと、"なんてせかい"に連れていく作品なんや・・・と。観終わった後、深く深く、その世界観の構築の巧さを、噛み締めなおす作品だった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.8/5.0点満点)

5.愛媛県立松山東高等学校「きょうは塾に行くふりをして」

作:越智優、曽我部マコト

感想

前半70%くらいは、高校演劇のリハーサルをテーマにした、シチュエーションコメディ。後半30%は、コロナで部活動が出来なかった高校生たちの、叫びのような作品。

前半のコメディがとにかく秀逸だった。三谷幸喜風だろうな。どこか「ショウ・マスト・ゴー・オン」や「ラジオの時間」、その他もろもろの三谷作品を思い起こさせるような、上質なコメディ。三谷幸喜ライクの作品を、高校生がやっているのってあまり観た事がないので、新鮮。しかも、舞台が高校演劇の公演の「テクリハ」なのだから、客席が共感しない訳がない。しかも、音響・照明のオペ室から声が出て、袖のマイクから間違った声が聞こえ、緞帳も上げ下げと、舞台の使い方もアクティブ。会場がとにかくドッカンドッカン受けている。正直なところ、「コロナ」とか、日常の嫌な事とかを全て忘れて、心から笑えて。とても幸せな時間だったのだけれど。

後半。コロナをテーマにした話。それまでは、コロナ時代だという設定は出てくるも、コロナの話題そのものは出ていなかったので、唐突な「コロナ」に面食らう。正直なところ、不快感。「ここまで気持ちよく笑わせておいて、なぜ今更コロナの件を話題にするのか」というのを強く思う。コメディを、笑って終われば、それで幸せだったじゃないか。「コロナ」のテーマに、最初は拒絶感があったのだけれど。

気がつくと。・・・当たり前だけれど、高校演劇。物語の舞台も、高校演劇で。演じているのも、高校生。物語の登場人物の層でも、役を離れて演じている人個人の層でも、「笑っておしまい」な演劇で、終われるはずがないという、切実な感覚を受け取らずにはいられない。コメディ部分とはガラッと変わって、「コロナ」でどうしようもなかった事の数々に直面すると、最初感じていた拒絶感が、徐々に溶けていく。ちょっと時間がかかった。笑っていたかった。でも、それでは済まない現実を、徐々に思い出させてくれた。

ラスト。助っ人として来た男の子(名前忘れた)が、舞台セットの神社にかしわ手をするシーンで、もうたまらなくなってしまった。虚構と現実が、溶けた。前半、あそこまで爆笑したからこそ、おもろうてやがて悲しの、涙。コロナの話題が出た瞬間の拒絶感を反省しつつ、ただただ、マスクを涙で濡らしながら、ホリゾントの前で手を振るラストシーンを観ていた。

観終わった後、席を立つと、近くに座っていた高校生の一人が(演劇部の仲間達で観に来ていたっぽい)、むせるくらいギャン泣きして目を腫らしていたのがとても印象に残った。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.9/5.0点満点)

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