<観劇レポート>第46回全国高等学校総合文化祭東京大会 演劇部門(とうきょう総文2022)

#芝居,#高校演劇

【ネタバレ分離】第46回全国高等学校総合文化祭東京大会 演劇部門(とうきょう総文2022)の演劇部門の感想です

3日間の作品で、観劇できたものについての感想を、このページに順次更新していきます。

最終更新:2022年08月21日 0時46分

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
名称第46回全国高等学校総合文化祭東京大会
愛称(とうきょう総文2022)
部門演劇部門
日程2022年7月31日(日)~8月2日(火)
会場なかのZERO
(東京都)

上演演目

上演順*学校名*タイトル*作者*日時
1東京都立千早高等学校7月29日午前9時集合原案:嵯峨蜜柑
脚本:西松悠香・浅岡勇矢・賀東奏
31日10:40~
2埼玉県立秩父農工科学高等学校Brilliant Lifeコイケユタカ31日12:10~
3北海道大麻高等学校Tip-Off山崎公博31日14:10~
4大谷高等学校なんてまてき水谷紗良・髙杉学31日15:40~
5兵庫県立伊丹高等学校晴れの日、曇り通り雨古賀はなを31日17:10~
6大分県立三重総合高等学校『ねえMAMA…』
~羊群に紛れる猫と猿山を見上げる犬~
0-1MOVERMIE@FILTER131日9:40~
7岐阜県立岐阜農林高等学校西野勇仁1日11:10~
8愛媛県立松山東高等学校きょうは塾に行くふりをして越智優、曽我部マコト1日13:10~
9栃木県立栃木高等学校GEKKO栃木高等学校演劇部1日14:40~
10青森県立青森中央高等学校俺とマリコと終わらない昼休み畑澤聖悟1日16:10~
11島根県立三刀屋高等学校永井隆物語亀尾佳宏2日9:40~
12茨城県立日立第一高等学校なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?高野心暖と演劇部2日11:10~

満足度の記載について

私自身の満足度を、個々の演目ごとに記載します。
「CoRich観てきた」に投稿している個人的な満足度と同じ尺度で表現します。

ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

1.東京都立千早高等学校「7月29日午前9時集合」

原案:嵯峨蜜柑、脚本:西松悠香・浅岡勇矢・賀東奏

感想

7月29日9時。クラス?の文化祭の演劇の演目を決めるために、集まったクラスメイト4人…のはずが3人。ひとり来ない。山盛りに積まれた、古今東西の演劇作品の本。それを読みながら、ダルそうに選ぶ、男子一人、女子二人。会話の端々から、それぞれが家庭内で様々な問題を抱えているのが見え隠れするも、それ程真剣な話題にならずスルーしていく。その場に来なかった「オーロラ」は、どうやら退学の問題を抱えているらしい。ごくごく自然な会話の中で感じる、それぞれの生活の問題を、氷山の頂上だけ描写したような演劇。
劇作家の本を選ぶ…というので、あえて審査員の鴻上尚史の読み方を間違えてみたり、ケラリーノ・サンドロビッチって何人だよ、みたいなネタを入れて、上演順一発目に「演劇を観る層のつかみ」がしっしりしてて好感。
おそらく「ヤングケアラー」の問題を中心に据えて、ごくごくありきたりな高校生の生活からは、注意深く見ないと見落としてしまいそうな「それぞれの家庭の事情」を描いている…が意図だと思う。高校生の会話が自然。夏休みに入ったばかりで、ウキウキしている感のある会話を、ただ単に切り取って再現したようにも見えるけれど。背後に潜んでいる何かを、あえて焦点を当てずに描く。それぞれの生活で抱えている問題は、氷山の頭は語られても、それぞれ、なかなか踏み込みにくい。頭は見えているけれど、決して海中に踏み込むことはない。踏み込むことはできない。ヤングケアラー他、生活で抱える問題の描き方としては、面白いな、と思う。ただ、描きたい焦点に当てずに描いたのが、必ずしも成功していたか…というと、ちょっと疑問。なんというか、もう少しガツンと来て欲しい、っていうのが、余韻と共に感じる一番大きな部分だった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5.0点満点)

2.埼玉県立秩父農工科学高等学校「Brilliant Life」

作:コイケユタカ

感想

高校での進路希望調査。AIを作っている会社「ビープラス」に、推薦枠が2名。そこに、クラスの友達みんなが就職希望を出すことが分かって、さあ大変。クラスにはアンドロイドっぽいAI、のアイコ?がいて、みんなの相談に乗ってくれるけれど、気がつけはそのアンドロイドAIも「ビープラス」社製。アイコ、私たちの進路が被ることを「予想していたのか?」というお話。
既にAIの予測の範囲内にあることで、人間の意思の存在意義を問うようなお話。AIもののお話"あるある"…というか、AI系のお話では、よくあるパターンに陥ってる感が強いのと。それぞれが自分の進路などの悩みを、そのままセリフで語ってしまう弁論大会な芝居になっているのが残念。ちょっと手に合わなかった。後半、アイコがビープラス社のAIだと知って、そこから物語が動くかなぁ…とは思ったのだけれど、何が解決したのか分からないまま、気がつくと結局「それぞれの選択肢を生きるのだ」という結論は、ちょっと安直。AIを好きになってしまう主人公も、さすがにちょっと唐突。進路希望調査の話というのもあって、ポートフォリオの話とか、最近の進学制度の背景・・・なんかも盛り込んでいる気がしたけれど、いずれも弱くて、印象に残らなかった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(3/5.0点満点)

3.北海道大麻高等学校「Tip-Off」

作:山崎公博

感想

コロナ後数年後の未来。高校の教室。新聞部顧問の教師は、コロナの頃の体験を聴きたいという生徒に乞われて、かつての教え子たちを学校に呼んだ。そこに来たのは、かつてバスケ部で、大会出場に向けて頑張っていた浩太。今はバスケは続けず、東京の大学に通っていたはず…だった。そして同じようにバスケを頑張っていた京介は、事故で車椅子生活に。たまたまその京介の妹を、新聞部顧問の教師が担任したことで、様子を知っていたようだ。新聞部の取材の場は、気がつくと、失ったコロナの時間と、二人のバスケ部の選手の再開の場になっていく、というお話。
バスケをテーマにしている演劇…は何度か観たことあるけれど、とにかく「ドリブル」が命。ボールをパスしたり、試合を模したドリブルのシーンなどが何度か挟まれたけれど、上手い。あ、この子たち、本当にバスケ部なんだなぁ、というリアリティに期待が高まる。コロナが収まった少し未来の話なのは面白い視点なのに、「コロナ」なのか「事故で怪我した友達」なのか、いまいち焦点が定まらずで、作為的に感動話…の方向に持って行く感が否めなかった。新聞部の取材に来ていた2人は、先輩たちのコロナの事を、まるでコロナを知らないかのように取材するのだけれど、彼女たちも中学時代にコロナに遭遇しているはずで、何も知らないようなインタビューだったのが疑問。柱になるべきの「コロナ」に対するリアリティが、私の中で大きく崩れてしまったのが痛かった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(3/5.0点満点)

4.大谷高等学校「なんてまてき」

作:水谷紗良・髙杉学

感想

ストーリーを書くのが難しい。どうやら舞台で展開されている「へんな事」は、先生に向かって何か話している女子の、想像の中の世界、のように見える。シューベルトの「魔笛」のような、夜の女王が出てきて、アリアを歌い出すような、でもコミカルに展開される「想像の中の世界」と。上手の学校机で、その想像を記載した紙束を読んでいる先生。なんなんだろうこの世界?、何が起こっているのか、あまり確信が持てないまま物語は進む。ラストでほのかに明かされる、(おそらく)虐待の中で彼女が生き延びていくために作った想像が生み出した状況説明の物語である、という事。報告書?のようなものに記された長い物語の意図を先生が理解し、その状況から抜け出すための一筋の救いの光を差す、それまでの物語。
「イマジナリーフレンド」ならぬ「イマジナリー・ストーリー」とでもいうのか。想像の舞台にそのまんま表現した作品。想像の中にしか、自分が存在する事が出来ない、表現する事が出来ない、一人の女性の苦しみと、そこに一筋の希望の光がしてくる過程を、説明をかなり排して、ハイスピードに、かつテーマーとは裏腹にコミカルに、描き出す。
…冒頭ここまで意図を説明しないと、意味不明で途中で飽きてしまいそうなものなのに、「想像」の世界がとにかくぶっ飛んでて面白い。なかのZEROのホールの特性か、私がたまたま座っていた舞台後方席の特性か、コミカルなセリフが聞こえにくいにもかかわらず、内容が分からなくても、会場が舞台に引き込まれているな…という肌感覚。純粋に楽しいのと、これだけ"訳わからない展開だと、最後まで見届けて意味をつかみ取ってやる!という感覚が、客席全体に産まれてる感覚。途中、「若干、飽きたかなー」という自分と「それでもラストどうなるの?」という自分。2つの感覚が、真っ二つに分裂しているのを、少し引いた目線で意識する。
ラスト、言葉少なめに語られる、上記の真実。彼女の想像の世界、という事もあり、虐待なのか、離別なのか…真実は何か、という事は、詳しく言及していなかったように思う。ただ、彼女が生き延びるために必要だった壮大な世界が、なぜ存在したのか。そこに差した光が、どれだけ尊いものなのか。それだけはしっかりと伝わってくる。あの訳わからない世界を脳内に展開する事を拠り所に、日々生き延びていたのを想像すると、涙が止まらなくなってしまった。正直、ストーリーは、観終わった今でも、何も確かなことが分からない。でも、断片の分かった事実だけでも、切実に過ぎて、涙があふれて止まらない。「なんちゅう経験をさせてくれるんや…」と、観終わった後、感情を整えるのが大変だった。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.7/5.0点満点)

5.兵庫県立伊丹高等学校「晴れの日、曇り通り雨」

作:古賀はなを

感想

校舎の裏手の、日の当たらなそうな場所。ふらっとやってきた愛は、園芸部(…といっても部員一人だけ…)の平塚夏樹に突然、友達になろうと持ち掛ける。最初は嫌がっている夏樹だが、途中から入ってくる一(はじめ)にも影響される。そんな中、生物部の美月が、園芸部の場所にビオトープを作るから、この花壇?は校門前に移してくれ、と唐突に持ち掛けてくる。愛と一の加勢もあって追い返すことに成功。友達になるかどうしようか…と考えていた夏樹は、彼女をかけがえのない友達として認識していく。…お話だけ強引まとめると、こうなのだけれど。
何気ない会話の中に「ともだち」とは何かという事への考えや想いが、たくさん詰め込まれている。なので、あらすじだけ追いかけても、作品の意味を摑めないタイプのお話。とても演劇らしい、絶妙な会話劇だった。
最初は、愛がまるで幽霊のようで、「後半、実は死んでしまった昔の学生の霊でした」みたいなオチかな…、などと予想する(もちろん違ってた)。その存在感の無さは、転校する日なのに、誰からもお別れを言ってもらえない、どこか学校の中で「浮いて」いて居場所を求めていた事に繋がっていく。園芸部…のイメージ通りなのか、どこか孤高で、友達をあまり必要としないタイプの夏樹だけれど、生物部の横暴に対する愛を見て、そんな考えが少しずつ変化していく。
言ってしまえば、人それぞれを認め合う、という事なのかもしれないけれど。それでも、個々の想いを持ったまま、他の人と混じりあう事は、ある種のシンドさも伴っていく。そのシンドさの「摩擦音」と、摩擦がなくなった滑らかに「すべる音」。2つの音を、微妙な会話の中で奏でられたような、そんなお話だった。
園芸部の、花壇の敷地の使い方が上手くて、出演者が少ないのに、間口の広いホールを上手く使い切っていた。でもこの芝居は、小劇場で演じられるのを観てみたいな、というのを、上演途中から切に思った。むしろアゴラ劇場あたりでもう少し近くで会話を聴きたい、と思ったり。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.5/5.0点満点)

6.大分県立三重総合高等学校「『ねえMAMA…』~羊群に紛れる猫と猿山を見上げる犬~」

作:0-1MOVERMIE@FILTER13

感想

近未来。どこかインドのカースト制度を思わせるような身分社会の物語。体に刻まれた「色」によって身分が決まり、その身分によって社会的な地位も決まる。その身分は、婚姻によって変わる事がある。その中で、その身分制度に疑問を持ちながらも「MAMA」・・・今でいう「学校」に通う人々と、その仕組みのおかしさに気付き、抵抗する事を決意する人の物語。
壮大な物語を観た。観終わった後、120分くらい観たんじゃないか、と思った。途中で時計を3回観たのは、長いからではなく「上演時間、大幅にオーバーしてるんじゃない?」と思ったから(もちろんそんな事はない)。若干早口なセリフ回しではあるものの、テキパキと語られていく、未来の管理社会。深堀された近未来の管理社会が描かれているのに、ありきたりな説明ゼリフなどは極力排されていて、物語の中でこの近未来がどういう社会なのかが自然と分かっていく展開がとても巧み。
産まれた家庭の経済力によって、学力や収入が決まってしまう世の中。その中で、「MAMA」と呼ばれる学校で、疑問も持たずに飼いならされていく…いや、飼いならされている、という事すら気がつかない人々。どこか、ドラマ「女王の教室」のような、最下層出身の先生の叫びを通して、従順である事のおかしさが語られていく。
この近未来社会。インドのカースト制度のような「過去」を扱っているように見えて、描いているのは実は「現代」の我々の社会。「金」や「貧富」が全てを決定する社会への疑問。経済格差で、社会的な地位の固定化が始まっているのは、アメリカ社会では顕著だし、日本でもそのような議論はたくさんなされている。マルクスや、ロバート・キヨサキなんかの言葉をセリフに織り込みながら、実際に今の世界がそうなってしまっている事に対する、警鐘に思えてくる。近未来を描いたSFだけれど、過去の偉大なSF作品同様、SFが(そうあるべくして)今の社会の問題をえぐり取っているのも、演劇として爽快。
2018年初演との事。脚本は、「0-1MOVERMIE@FILTER13」で、名前だけだと、高校生なのか顧問なのか、あるいは演劇部合作なのか、判別が出来なかった(創作であることは間違いないと思うのだけれど)。高校生が書いたのだとしたら、どえらい才能に出会ったかもしれない…という想いを、観終わった後に持った。

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満足度

★★★★★
★★★★★

(4.8/5.0点満点)

7.岐阜県立岐阜農林高等学校「衣」

作:西野勇仁

感想

既に社会に出て働き出してる、どこかの演劇部の同期部員たち。今日は仲間たちが集まって「飲むぞ~」な日。カラオケボックスで語られる、演劇部時代。1年次の下積み。2年次に上がった時の3年生の横暴。そして3年次、自分達が主役になるはずの時に、コロナ。仲間との思いのすれ違い。無念。…多数の役者を舞台に配し、演劇部員たちの3年間をコロナ後の回想として描く物語。
大人時代からの回想として、淡々と、淡々と語られる、演劇部3年間の物語。…私自身も演劇部だったから、共感するところもあり(3年が引退したら、新3年横暴なのとか…あるある(笑))。
ただ、前半は、よくある「演劇部が演劇部を描いた物語」に見える。大人の視点、カラオケボックスでお酒でも飲んでそうな視点から描くのは(よくよく考えると)斬新だったり、農業高校ならではか「マクワウリ」…というメロンに似た何かを育てている話も挟まれるのは面白いな、と思いつつも。物語が描きたい「焦点」が、なかなか摑めずに困る。
3年次。コロナ。大会は中止。自分たちの目指していたものがなくなり、色々なものが一気に崩れていく。それがきっかけで、仲間の中にも確執が産まれ、それは大人になった今でもどこか影を落としている。
「私たちの代は、高校演劇の大会すら開催されなかったんだよ」、という叫び。その「叫び」を、演劇を創るものとして、演劇として、残さずにはいられなかった。ラスト数分間。後ろから照らされる一筋のライトの中で部長が語る「叫び」が、その全てを代弁しているようで、何とも痛ましくて涙が一筋。観ている人も同時代に生きて、コロナというよく分からない何かを体験している。その「どうしようもなさの分かち合い」としての涙が流れてくる。そんな「共感」と、あの出来事を忘れないという「祈り」が溢れるような作品だった。

直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5.0点満点)

8.愛媛県立松山東高等学校「きょうは塾に行くふりをして」

作:越智優、曽我部マコト

残念ながら、鑑賞券の抽選に漏れて、観れませんでした。

9.栃木県立栃木高等学校「GEKKO」

作:栃木高等学校演劇部

残念ながら、鑑賞券の抽選に漏れて、観れませんでした。

10.青森県立青森中央高等学校「俺とマリコと終わらない昼休み」

作:畑澤聖悟

残念ながら、鑑賞券の抽選に漏れて、観れませんでした。

11.島根県立三刀屋高等学校「永井隆物語」

作:亀尾佳宏

当選してましたが、諸事情で観劇出来ませんでした。

12.茨城県立日立第一高等学校「なぜ茨城は魅力度ランキング最下位なのか?」

作:高野心暖と演劇部

当選してましたが、諸事情で観劇出来ませんでした。

審査結果

最優秀賞
松山東

優秀賞(上演順)
大谷
県立伊丹
青森中央

優良賞(上演順)
千早
秩父農工科学
大麻
三重総合
岐阜農林
栃木
三刀屋
日立第一

創作脚本賞
県立伊丹「晴れの日、くもり通り雨」

舞台美術賞
秩父農工科学

内木文英賞
日立第一

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