<観劇レポート>高校演劇サミット「高校演劇サミット2022」

#芝居,#高校演劇,#高校演劇サミット

【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 高校演劇サミット「高校演劇サミット2022」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名高校演劇サミット
高校演劇サミット2022
日時場所2022/12/27(火)~2022/12/29(木)
こまばアゴラ劇場(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

私は34歳で高校演劇と出会いました。高校演劇を知って演劇観が大きく変わりました。世界が一気に広がりました。20代のころの私は観もしないで高校演劇をナメていました。そんな当時の私にこういうのを観せてやりたい。「高校演劇があるよ」と教えてやりたい。そんな思いで高校演劇サミットを続けています。今年も自信をもって、特に高校演劇をまだ知らないお客様のご来場をお待ちしています。 

高校演劇サミット

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

芸術総合高校(埼玉県)
『Midnight Girlfriend』
原作:モリエール 翻訳・翻案:稲葉智己

都立千早高校(東京都)
『フワフワに未熟』
作:櫻井ひなた・髙森美羽・樋口璃媛

都立駒場高校(東京都)
『明後日ドロー』
作:後明巧太郎

高校演劇サミット
高校演劇サミットは青年団演出部に所属する西村和宏、林成彦により、2010年12月にアトリエ春風舎で第1回を開催しました。2013年度からは会場をこまばアゴラ劇場に移しました。2012年度に開催した「高校演劇サミット2012」からはプロデューサー林成彦とディレクター田中圭介の二人三脚の運営が続いています。大人の観客が高校演劇と出会う場を創出することを第一のねらいとしています。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2022年12月29日
価格各校1500円 全席自由

チケット購入方法

公演ページからのリンクで、PassMarketでチケットを購入・決済しました。
当日、チケット画面を提示して、画面操作をして入場しました。

客層・客席の様子

男女比は6:4くらいで、少し男性多め。
40代upの方が多かった印象です。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・高校演劇

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

2020年、2021年とコロナのため開催がなかった、高校演劇サミット。私自身は、2018年2019年と観て、今回で3度目。3校の作品を拝見した。今年は、上演中の演者も基本マスクをして演じる。2022年12月現在、他の一般的な演劇は、演者がマスクをして上演されてはいないが、コロナ感染・蔓延のリスクは現時点でもあり、開催中に演者間の感染等を防ぐ意味でも、マスクでの上演にしたと想像。各校の感想は、以下。

芸術総合高校「Midnight Girlfriend」

原作:モリエール 翻訳・翻案:稲葉智己

中世?の貴族の家同士の結婚。夜だけ、バルコニーから愛を誓っていた女性は、実は別人。友達の「男」だった。財産目当てに、女なのに男として育てられた友達が、実は相手だった。2つの家と、2組のカップルと、その周りの人々のドタバタを描いた喜劇。原作はモリエール、という事だけれど。シェークスピアにもこんな話があった気がするが・・・記憶違いか。独特の演技スタイルというか、独特の様式美を持った演劇・・・という感覚が強い。女性が男装をしていることもあり、宝塚歌劇団を彷彿とさせる。

「様式」の中に、観客としてはまり込めれば、すんなりと楽しめる作品なのだろうけれど・・・私自身は、このスタイルはちょっと手に合わなかった。セリフのやり取りが、どうにも不自然に感じられて仕方がなかった。演じている側が、楽しんでやっているなぁ、というのは伝わってくるのだけれど、やっぱり「型」に入っていけないと、観ていてちょっと辛い。「ミュージカル」に対して「突然、歌い出すのは変だから苦手」と言って、毛嫌いする人もいるけれど、あの感覚と似ているのかな・・・という気もする。(私はミュージカルは大好きだけれど)

都立千早高校「フワフワに未熟」

作:櫻井ひなた・髙森美羽・樋口璃媛

いわゆる「肖像画」のような短い「自分語り」を、集団で表現したような作品。学校生活で起こる様々な事を、素早く転換をしながら、コミカルに描いていく。他の2校は、台本の販売があったのだけれど、この作品は台本販売がなかったので、ひょっとするとエチュードなどの即興劇的に作り上げた作品なのかもしれない。冒頭、一年生のみで演じます、と宣言があった。キャスト表を見ると、確かに一年生で作り上げた作品の様子。たまたまなのかは分からないけれど、全員が女性キャスト。

短編が次々連なっていくので、全ての話を忘れてしまっているけれど、とても面白かった。身近な会話を面白く描いていくのだけれど、それが「他者から見たらどう見えるか」みたいなことをある程度鮮明に「見透かした」うえでの表現になっているのが、鋭いし、面白い。しかも高校演劇サミットは、「大人」が観に来る事を想定しているのもあって、「高校生」と「大人」のギャップみたいなものが、特に客席に刺さる。サミット向けに作られた作品かな・・・と思ったけれど、ちょっと検索してみると、今年の大会の出場作品の様子。大会だと、審査員はどんな顔をして観たのかなぁ・・・なんて事を、観劇後に考えてしまった。

千早高校、先日の東京総文で、「7月29日午前9時集合」という作品を拝見していた。会話がとてもナチュラルというか、自然体で進むのが、この高校の特徴だろうか。当時は3年生が主体の劇だった様子だけれど、今回は1年生。自然体の会話での芝居の作り方受け継がれている、という事だろうか。

エピソードで印象に残ったのは、何度も繰り返される「どこにモノを置いたのか忘れてしまう子の」の話。あのフォーメーションになっただけで、会場からクスクス笑い。

都立駒場高校「明後日ドロー」

作:後明巧太郎

高校生。自分の生活を、カードゲームの世界の中に例え、次のカードを引く=「ドローする」。「いいカードを引く」事で、「いい味方」を増やして、周りの敵を倒していく・・・。でも、手持ちのカードはそうそう変わらない。演劇部のメンバーは自分の思い通りにはならないし、親は何故か朝食も作ってくれない。でも、手持ちのカードを大事にしないと、結局何も始まらない。現状に対するある種の、絶望感を表現しつつも、同時に、今持っているもので勝負する。オレというカードで勝負する。その決意、勇気の過程を、カードゲームの世界観になぞらえながら描いた話。

私自身、カードゲームの言葉を全く知らないし、その周辺のキャラクターの事もよく分からない。なので前半、世界観に溶け込むまでは結構苦労したものの、後半、意図がつかめてくると、なんとすごい話なのか・・・と思う。ものすごく共感しつつ、その決意の描写に涙してしまう。ラスト、カーテンコールのように出てきて踊られるダンスの中で、周りの客も、遠い目しながらウルウルしてる。とてもいい感覚のすくい取り方をするなぁ、と感心してしまう。

そういえば私の高校生時代、大会前の演劇部。「朝練」をやるかどうかで、めちゃ揉めた。私は、朝練でもしないと大会勝てないよな・・・なんて事を思うも、他の部員が全員そう思っている訳ではなかった。当時の私は、どこか「カードを換えたい(ドロー!)」って思ったよなぁ、なんて事をふと思い出す。この劇は、自分で戦おうとする主人公の葛藤の話。観てると、ほろ苦さと共に涙ぽろぽろ。

終演後、作者は顧問?生徒?を確認したら、脚本は主役のひょろっとした男の子。生徒創作作品だった。演出は、もう一人の男の子だった。カードゲームの描写が、今の高校生全般的に受け入れられる・・・とは思えなかったので、前半の描写は、年齢に限らず、知らない人はやっぱりとっつきにくいとは思う。でも、その世界観からしか産まれない、切実さだったり、ヒリヒリするような痛さが、とにかく詰まっている作品。他にも作品書いているのかなぁ、2年生のようだから大会はどうなったのかなぁ、なんて事が頭をよぎる。・・・要は、他の作品を観たい、という感覚が強くなった。

カードゲームの世界観を表現する、演者の身体能力がとても高い。ラスト、カーテンコール的なダンスに、客席が思わず乗ってしまう。加えて、中盤の描写で体を重ね合わせるのを観ていると、すごく信頼関係のある演劇部なんだろうなぁ・・・と、カードーを換えたかった自分の事を思い出しながら、観ていてこの部が羨ましくなってしまった。