観劇

【観劇レポ】笑の内閣「12人の生まない日本人」

【ネタバレ分離】 笑の内閣「12人の生まない日本人」の観劇メモです。

初回投稿:2026年10月11日 14時34分
最終更新:2026年10月11日 14時37分

公演前情報

公演・観劇データ

項目 データ
団体名 笑の内閣
回 第35次笑の内閣
題 12人の生まない日本人
脚本 高間響(笑の内閣)
演出 高間響(笑の内閣)
日時場所 2026/10/09(金)~2026/10/12(月)
インディペンデントシアターOji(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

笑の内閣とは
  2005年、代表・脚本家・演出を勤める高間響が中心となって旗揚げされた劇団。現在の代表は髭だるマンが務める。

 時事ネタ風刺芝居として、「お客さんを笑わせながら、社会問題を知ってもらう」という方針で京都を中心に活動。「漫画アニメなどの表現規制」「風営法でダンスを規制」「ジェンダー」「人種差別」「反社会勢力にも人権を適応すべきか」など様々な問題をわかりやすくコメディにする作風で知名度を上げている。

北は北海道から南は福岡まで、また、ソウル演劇協会の協力で韓国公演も行い、アフタートークに出演頂いた、哲学者の内田樹氏、社会学者の宮台真司氏、参議院議員の福山哲郎氏など、さまざまなジャンルの方々が、ファンであることを公言。

 COVID-19の流行により劇場で公演がしにくくなった2020年には、「もし戦国時代に織田家臣団がリモートで軍議をしていたら」という設定で「信長のリモート」というZOOM演劇を配信。ラサール石井氏をはじめ、全国から多くの著名な役者40人以上が自宅から配信する時代劇を製作し評判を呼んだ。

前・総裁のあいさつ

 こんにちは、笑の内閣総裁のタカマヒビキです。我々はいかなる手段をもってしてでも笑わせます。私は、「こういうジャンルの笑いは嫌い」とか、「こういう笑いの取り方はレベルが低い」とかいう意見には与しません。笑いと言うものは、理屈なんかつけず面白いか面白くないかで判断すべきであると思います。
 私は笑わせるためだったら、犯罪及び著しく人を傷つける行為以外ならば何でもします。ってことで、我々の作品は真面目に生きている人にとってはおふざけにしか見えない事もします。食べ物を粗末にしたり、グダグダな芝居をあえて作ったり。しかし、目的は、お客様を絶対に笑わせることです。
 世間の芝居はオナニーばっかりだと思ったことはありませんか?その通りです。世には自己満足だけの面白くもない芝居の多いこと。しかし、私は芝居のみならず全ての表現活動はマスターベーションだと考えています。例えば、世のため人のための使命感で、自分が本当にやりたくない芝居をしてるような人がいたら、とても可哀想だし非効率的。世に訴えるなら、もっといい手段があると思います。
 私はオナニーでかまわない。しかし、アイドルのオナニーだったら見たい人はいます。だから、笑の内閣はアイドルのオナニーのような芝居を作りたいのです。

高間響

笑の内閣

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

【あらすじ】
鉄道はとうの昔に廃線、車で50分かかる隣町の大型イオンまで行かないとまともに買い物も出来ないとある山間部の田舎町堂島町。
少子化も顕著で、町内5つの小学校はいずれも3桁を割り込んだため、役場は小学校を一つに統廃合し、小中一貫校を設立しようと計画していた。
その賛否を問うため、若手職員の提案により、25−45歳の子育て世代の町民をランダムに集め意見を求めるくじ引き民主主義会議を導入する。
役場職員2名と集められた10名によって始まった会議。
各々賛成反対の意見を述べていく中、一人の男が待ったをかける。
その男の主張は、「そもそも行政が、子育て支援をすることは倫理に反する。子供を作ることは反道徳的だ」という「反出生主義」であった。

笑の内閣最新作は、2024年に好評を博した作品の再演ツアー。
なぜ日本は少子化なのか?そして反出生主義とはなんなのか?を「12人の怒れる男」以降の伝統である「12人による密室会議演劇」

【反出生主義とは?】 
 全ての子供は、「生まれて良いかという同意なしに、子供が欲しいという親のエゴによって強制的に誕生させられた」以上、人間は生まれない方がよく、子供は作るべきではないという思想。
 さらに生まれた子供が結果的に幸せな人生を歩めたとしても、辛さゆえに親に対し「生まれてきたくなかった」と思う子供がいる一方で、「生まれてさえいれば幸福な体験が出来たのに、なぜ生んでくれなかったのか」と抗議する子供は存在しない。ならば、子供は作らない方が合理的であるとされる。
 古代から多くの哲学者が訴え、南アフリカの哲学者、デイヴィット・ベネターの著書「生まれてこないほうが良かった(2006年)」は全世界で注目を集め、大ヒット漫画「進撃の巨人」の、主人公エレンの異母兄、ジーク・イェーガーによる「エルディア人不妊化計画」など、創作物にも取り上げられるなど、多くの人が生きづらいと思う世の中も相まって日本でも急速に支持者を増やしている。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目 データ
観劇日時 2026年10月10日
13時00分〜
上演時間 105分(途中休憩なし)
価格 3000円 全席自由 事前振り込み割

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。

感想(ネタバレあり)

12人の生まない日本人

ストーリーは劇団紹介の通り。小学校の統廃合の議論のために、基本は無作為抽出で集められた市民が議論している中。ある男が「反出生主義」の主張を繰り広げる(6番)。様々な立場に置かれた他の殆どの出席者が感化されていく。その様子を斜めに見ている男(2番)が「反出生主義」に対して反論し、感化された多くの出席者が別の視点を見出していく話。

久しぶりの笑の内閣。駒場アゴラ劇場が閉館したことが大きいのか、京都での公演は続けているようだけれど、東京まで出張ってくるのはなかなか大変な様子が、代表の髭だるマンと作家の高間響の前説で語られる。京都まで観に行かねばならない劇団だけれど…なかなか足をのばせていなかった。

「反出生主義」という考え方を全く知らずに観た(一緒に観た友人は、劇団の事前説明の通り「進撃の巨人」で知ったという)。初めて触れる考え方だったが、私自身髭だるマンの演じる6番(役名)の主張に論理的には何も反論できず「納得」してしまった。納得したものの、「そうはならんやろ」というツッコミも同時に持つ。2番の反論が正に考えていたそれで、観劇しながら「反出生主義」というものをある程度クイックに学びつつ、その論理の穴みたいなものも同時に見出す。ただ「反出生主義」というものの正しさも、一定量認めねばならないという事実にも気が付く。多くの登場人物と同じように、また高間響の(おそらく)狙い通りの思考をたどることになったし、本当にそれでいいのか…という事を観劇しながら、頭をフル回転して考えさせられることになった。

「反出生主義」の思想、何かに論理の構造が似ているな…と思考をめぐらして気が付いたのは「環境保護」の論理だった。「XXは環境に悪いので止めるべき、YYに換えるべき」…なんて主張を耳にすると、「そもそも人類が存在することが環境には最悪なので、地球環境の事を考えるなら人類が滅亡すべきでは?」みたいな事を考えた事が、誰しも一度ではあるのではないか?と思う。例えXXをYYに換えたとしても、人間が生きている事は必ず環境に対する負荷を伴う。「負荷の軽い」方法を選択することは出来ても、「負荷の無い」方法などと言うのは存在しない。ふと思い出すのは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリ(いわゆるグレタちゃん)。環境活動にあたる移動の際に、化石燃料を使わない交通手段を使う…なんていう事が話題になったりもしたが、そもそもあなたの着ているもの、化石燃料で作ってますよ…とか、その交通手段を維持する人は化石燃料前提で生きてますよ…とか、思わずツッコミたくなるのを思い出す。そもそも、負荷をかけずに生きるなんて事は人間には出来ないはずだ。

それでも「環境に悪いので、人類が絶滅しましょう」と言わないのは、「環境保護」よりも「人類の種の保存」という命題を優先した人間のエゴなのだろうと思う。人間のエゴイズムを受け入れようとすると…どこか宗教的な価値観、罪悪の価値観で語らざるを得なくなるようにも思うが、そもそも人間なんて、生きているだけで罪深いものなんだろうと思う。

「反出生主義」に戻る。この論理は子供を産むことに「正しさ」を持ち込んでくる。全てが平等であるべきで、全てが正しくあるべきで、すべてが自主的な選択にゆだねられているべきで…という「正しさ」の連鎖。ただ、その考え方が度を越していくと、そもそも「生まれることを選択していない子供は産むべきではない」みたいな思想になってしまうのだが、人間なんてそもそも、エゴイスティックで、気まぐれで、ズルくて、アホで、非論理的であって。存在しているだけでそもそも「正しくない」という大元の考え方を忘れているように見える。…その視点を2番(役名)が提示してくれてホッとするのだけれど、同時に「反出生主義」という考え方に、論理的な反論を考えようとすると、人間の存在自体の「罪深さ」と「あきらめ」みたいなものを前提にしないといけない事に驚愕を覚える。アフタートークで高間響が「論理的には正しいので反論が出来ないけれど、正しいからといって(私自身が)その主張を支持する訳じゃない」と言っていたが、正にその事を物語…「十二人の怒れる男」や「12人の優しい日本人」っぽい会議モノの物語に乗せているのが中々に秀逸だった。観ながら、色々な価値観について考えを巡らせ、同時に「反出生主義」について勉強しないといけないな…と思う、思考を強いてくる作品だった。

アフタートークは小山晃弘の回。特に選んだわけではなく全く知らない人だったけれど、自己紹介によるとアンチフェミニズムとして有名な人らしい。「この手の主張の人とは、そもそも議論にならないことが多いけれど、小山さんは違うのでお呼びした」との紹介があった。「本当に私が登壇して良かったんですか?」的な話もしていたが、今回のトークではフェミニズムに関する話は少なめ。その他、作品の理解に関するトークという意味ではとても面白い内容だった。

「高間響作品集3」、出ていたのね…。1、2は持っているので3を購入。本作「12人の生まない日本人」も収録されていたので早速ナナメ読み。

タイトルとURLをコピーしました