<観劇レポート>鵺的(ぬえてき)「悪魔を汚せ」

#芝居, #鵺的

【ネタバレ分離】


観た芝居の感想です。

公演前情報

公演・観劇データ

団体名 鵺的(ぬえてき)
悪魔を汚せ
脚本 高木登
演出 寺十吾(tsumazuki no ishi)
日時場所 2019/09/05(木)~2019/09/18(水)
サンモールスタジオ(東京都)

劇団紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

鵺的(ぬえてき)は脚本家・高木登によるオリジナル作品を上演することを目的とした演劇ユニットです。 硬質な物語構造をそなえた劇作を通じて、アクチュアルな題材を悪夢的に描くことを特徴としています。 現代社会の歪み、そこを生きる人間の姿、新しい人間関係の在り様など「いま、このとき」を生きる表現者 として描くべきことごとを、慎重に大胆に、鵺的は追究していきます。

鵺的

事前に分かるストーリーは?

ストーリーのような記載が見当たりませんでした。

観劇のきっかけ

再演との事ですが、観劇をされている方の評判が、非常によかったため観劇を決めました。

ネタバレしない程度の情報

上演時間・チケット価格・満足度

観劇した日時 2019年9月12日
14時00分〜
価格 4800円 全席指定
(事前にネット予約)
上演時間 115分(途中休憩なし)
個人的な満足度
CoRichに投稿
★★★★★
(5/5点満点)

客席の様子

男女は5:5くらい。女性はシニア層が多く、男性は若い人からシニアまでまちまち。平日マチネの追加公演でしたので、私にっては、少し観慣れない客層でした。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも安心して観る事が出来る舞台です。

観た直後のtweet


ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ストーリーは。
製薬会社の経営者一族の父と、四人兄弟・姉妹。経営は人に任せて、順調ではないものの安泰。要は、金や仕事には困っていない裕福な人々のお話。家族の中は、気のふれかかった姉と、何もできない兄弟たち、そして、一族に続いている近親相姦っぽい情愛もあり、家族の中は、イビツな感情の中で壊れかかっていた。長女は家を守るあまり、外から来た婿や嫁をいびり、自分の三人の子供を可愛がり。偏った溺愛を受けた3人の子供たち、佐季と謙人は、息苦しい家を壊すためなのか、飼っていた猫を殺してみたりと、いたずらと表現するには過激な事をして大人たちの気を引くようなことをしていて。一方、長女の一季はどこか後ろめたさを感じて、二人のいたずらを知りつつも、大人には言わずに黙っている。それを見かねた佐季は、「何故抵抗しないで黙っているのか」と詰め寄る。それでも、動けない一季に、「姉さんに、新しい世界を見せてあげる」と言い放つ佐季。程なくして父は窒息して死に、一族の中に嵐が吹き荒れる・・・と、ものすごく端折って、強引にまとめてしまうと、こんなお話。

あれ、ここ、サンモールスタジオだよな、あの狭い、サンモールスタジオだよな、と、何度も自分に問い直してしまう程、場所を錯覚するような舞台。舞台に組まれているのはこの一族の家の居間で、非常に緻密に作られていて。まずこの世界観の創りこみだけで、圧倒された感もあり。その中で展開する、血族の、一族の、血の濃さを意識してまうような物語。

チラシと、タイトルと、事前にチョコチョコ入ってくる情報から想像していたものと比べると、物語として「裏切られた」部分はなかったかもしれない。一族が、いろいろな意味で自由にならない生活の中で、徐々に狂ってしまった後の物語。ドラマチックと言えばドラマチックだが、何処かで見たような物語だ、と言われればそんな気もする。日本映画に、こんなのをテーマにした作品は、かなりの数ありそうな気がする。

半面、深く印象に残ったのは、三兄弟姉妹の生き方へのスタンス。一季は、半分ボケた父からセクハラをされても、何も言えずにただ黙って一族の娘としての体裁を保ち続けている。一方、佐季は、悪魔のような表情をしているにもかかわらず、自分の出来る事をとにかくして、場を引っかきまわし、自由を手に入れようとしている。そして、物語の中盤まで語り部的に物語を進める長男の謙人は、利己的ではあるものの、どこか諦めて達観している感もある。

結局、父を殺して、会社に怪文書を送ったりと、場をひっかきまわしているのは、常に末っ子の佐季。芝居のタイトル通り、悪魔が語るかのような表情で、猫を殺したり、父を殺したりと、客を煽って迫ってくるのだけれど、最後まで、どこか彼女を憎めない。むしろ、家族がどうしようもなく絶対的な「悪」であるならば、そこから逃げよう、逃れようとする行為は、実は自然なことではないか、とさえ思えてくる。常識人で、感情を抑えていて、常に気を張っている一季の方が、実は自分の人生に対して受動的な、何もしない悪魔なんじゃないか、とさえ思えてきてしまう。

そんな事を考えていると、ふと、自分の中学時代位の、ある感覚を事を思い出す。おそらく、誰にでも経験があるとは思うけれど…テストの前の日なんかに学校に行くのが嫌で嫌で、夕日を観ながら「地震でも起こればいいのに」「世界なんか壊れちゃえばいいのに」なんて思う、あの感覚。あの感覚の延長に、実は佐季はいるだけなんじゃないんだろうか。子供らしく世界を狭く観ている感覚が、「壊れてほしい」という思いを、狂気の家族の中で肥大化させているんじゃないだろうか。家の中が常に狂気に溢れている時、そこから逃げようとするために、壊すために、悪魔のような表情を見せるのは、実は正常そのものなんじゃないか。そう思えてくる。

ラスト、ついに我慢できなくなった一季は、佐季が部屋で寝ているのを確認して、家に火を放つ。実は、放火を察知していた佐季は、身代わりを置いて部屋を抜け出していて。電話で会話する二人。「あなたを殺すまで、死ねなくなった」と叫ぶ一季に、微笑みながら「殺しに来るのを待っている」と告げる佐季。家族にどれだけ虐げられても行動を起こせなかった一季が、怒り狂った復讐者としての顔をみせる。一季にとっては、それはむしろ生きる理由、明確に抵抗するレゾンデートルを佐季に与えられた、と取ることも出来る。一族の血の連鎖という点では寒気が走る部分もあるものの、鬼畜ないたずらの限りを尽くしている佐季は、少なくとも悪魔ではないのではないか。・・・このあたり、観ている人がどう捉えるのが私にも分からないし、私の捉え方にそれ程自信がある訳ではないのだけれど、善悪の境界線の曖昧さのお話に見えて、仕方がなかった。

気になった役者さん。・・・もう世界観が凄いので、誰が気になるとかならないとかのレベルではないのだけれど・・・一応女優さんを中心に。秋月三佳と、福永マリカ、この2人からはとにかく目が離せなかった。秋月三佳の常に辛そうにしているあの表情と、福永マリカの悪魔のような表情。しばらく頭から離れそうもない。高橋恭子、冒頭からどこか影を背負っている感なのだけれど、妊娠しないあたりの下りでの崩れ方は、観ていてものすごく辛かった。

今年の下半期、あるいは年間ベストに、確実に食い込みそうな一本。

舞台#芝居, #鵺的