<観劇レポート>箱庭円舞曲「今はやることじゃない」

#芝居,#箱庭円舞曲

【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 箱庭円舞曲「今はやることじゃない」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名箱庭円舞曲
今はやることじゃない
脚本古川貴義
演出古川貴義
日時場所2020/12/24(木)~2020/12/30(水)
駅前劇場(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

2000年9月、日本大学芸術学部演劇学科劇作コース在学中の古川貴義が主宰となって、同期や高校時代の後輩を中心に旗揚げ。同年12月旗揚げ公演を行う。以来、古川の作・演出の元に、年1、2回のペースで次々と作品を上演。
「シュールなリアリズム」を作風として掲げ、観劇後の日常にふとよぎるような作品を発表し続けている。

箱庭円舞曲

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

旗揚げ20周年記念 育休明け 新劇団員お披露目公演

Introduction(短め)
ラーメンの作品を創る。いつかやらねばと思っていた。
“ラーメン”の作品である。ラーメン屋の作品ではない。
ラーメンだ。演劇で、ラーメンの作品を、作るのだ。

ラーメン屋の店主は、脚本と演出を兼ねる劇団主宰者に似ていると思う。
本人が死んだら店は終わり。麺上げ(脚本執筆)出来なくなったら終わり。スープの味(演出)がわからなくなったら終わり。のれん分けやチェーン展開したところで、本人の作る味(演劇)は、本人が居なくなったら終わり。
なんと刹那的だろう。

さて、これは、今、やることだろうか?
今、やるべきじゃないかもしれない。
今はやることじゃない。
そう言われるだろう。
だが、今はやる。
その人が生きている時しか、その人が作る(ラーメン)演劇は味わえないのだ。

脚本・演出:古川貴義

観劇のきっかけ

この日のこの時間、下北沢で上演している芝居を選びました。

過去の観劇

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2020年12月29日
14時00分〜
上演時間85分(途中休憩なし)
価格4000円 全席指定

チケット購入方法

劇団ホームページから、Livepocketというサイトに飛んで購入、クレジットカード決済しました。
スマホアプリに送られてきたチケットのQRコードを当日見せました。

客層・客席の様子

男女比は7:3くらい。中年くらいの男性が目立った感覚です。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・会話劇
・笑える
・考えさせる
・シンプル

観た直後のtweet

映像化の情報

情報はありません。

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ラーメンの話でもあり、演劇の話でもあり、他人から評される事のある全ての事に対する隠喩の話でもあった。隠喩的な、多重多層の狡猾な表現に、思わず唸った90分だった。物語が展開するタイプのお話ではなく、途中、何度も照明の切り替わりで、時間設定が変化していき、一定しない。突然、過去に飛んだり、今に飛んだりする。それでも、常に場面はラーメン屋の厨房。そこで繰り広げられる、濃厚な会話劇。

劇団初見だけれど、とにかく言葉のセンスがいい事に感服。一見、あり得ないようなシチュエーションの会話なのに、少ない言葉のやり取りから、その人が悩んでいたり、話題にしていたり、時に誤解していたりすることが、会話として浮かび上がってくる。ちょっとまどろっこしく感じる時もあるけれど、自然な会話のやり取りを見ているだけでも楽しい。この会話のやり取りだけでも、他の作品を観てみたいと思う。

今回の作品は、美味くも珍しくもない、普通のラーメン屋が舞台。舞台セットは、ラーメン屋のリアルな厨房と、カウンター。ラーメン屋店主のオヤジと、周りの人々の物語。そこで交わされるラーメンに関する会話が切ない。

ワサビを入れてパクチーに対抗だ!・・・でもパクチーに対抗って、具体的に何に対して対抗しているのか、それは流行に乗るという事なのか・・・とか、会話している当人達もよく分からなかったり。ラーメン屋に弟子入りした女性がSNSで口コミを偽造すれば、化学調味料のスープにしても客は行列を成したり。はたまた、自家製の麺にしてこだわればいいんじゃないかと主張する娘と、麺を自家製にするっていう事はどれほど手間をかかるのか、という店主の議論。こだわり始めたら、畑で小麦を自家製にしないと話が変になる、みんな誰かに一部をお願いすることで飲食業は成り立っている、・・・という店主の主張は、極端ではあるけれど、最もでもあったり。

時間の流れが一定しない中で繰り返される会話が、作っているもの(ラーメン)の本質と、納得できないけれど納得せざるを得ない何かに満ち溢れていて。美味しいラーメンとは何なのか、そもそもラーメンに対して情熱を注ぐとは何なのか。そういった事を考えざるを得なくなる。

そして、ラーメンは、演劇であり、表現する事の、壮大な隠喩でもある。演劇、パクチーに対抗するためにワサビ。でも、そもそも対抗すべき演劇って何なのだろうか、とか。考え出すと止まらなくなる。個人的には、興行上の一番最初のライバルは、上演日程が重なっている興行だと思うのだけれど、そういう事ってこの「ラーメン」の比喩だと、どう考えればいいのかな、とか、そんな物語とは関係ない思考が、グルングルン回り出す。

口コミだけで客が増える演劇に対する揶揄、それでも客を呼んで演劇を商売として成り立たせて食べていくことも大事かもしれない。スタッフワークを劇団外に依頼したりする事は、麺の自家製と同じで「こだわりがない」訳ではないはずだ。けれど、きっと外部に委託できない、劇団というラーメンの味を決定づける要素もあるのだろうと思う。

そんな、ラーメンであったり、演劇であったり、作る上での苦悩が、観ていて頭の中でループする。その事を表現する。ラーメンをリアルに描いているのに、とてもハイコンテキストな、そんな表現に関心させられた。

ひとつドキッとしたのは。店主が、他のラーメン屋の味を味見して回っていた時の感想。「でも、他人のラーメンを味見だけしするのも、どうかと思うけれどね」(うろ覚え)的なセリフ。日々、演劇ラーメンを食べて、美味い、マズいと、感想らしきものをつぶやいたり、書いたりしている私にとっては、少し耳の痛さを感じたり。

観終わった後、ラーメンが食べたくて、食べたくて、我慢できなくて。帰りしなの渋谷で、すぐにラーメンを食べた。

気になった役者さん。林和義、ラーメン屋の店主としてのリアル感がすごい。嶋村亜華里、凛とした不動産営業から、気が付けば一方的に会話するラーメン好きになっているのが印象に残り。