<観劇レポート>らまのだ「優しい顔ぶれ」

#芝居,#らまのだ

【ネタバレ分離】

観た芝居の感想です。

公演前情報

公演・観劇データ

団体名らまのだ
らまのだ6かい目公演
優しい顔ぶれ
脚本南出謙吾
演出森田あや
日時場所2020/03/06(金)~2020/03/11(水)
OFFOFFシアター(東京都)

優しい顔ぶれ | 演劇・ミュージカル等のクチコミ&チケット予約★CoRich舞台芸術!

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

「らまのだ」は、劇作家・南出謙吾の戯曲を森田あやのプロデュースによって上演することを目的に、2015 年より活動を開始しました。
一見して目を奪われるような特殊な手法こそとっていませんが、オーソドックスでありつつも、その驚異的な集中力によって、誠実に、丹念に作品を練り上げ、一歩一歩、進んできました。

「平温」の中に、不合理な人間存在そのものを見出そうとする姿勢が度々評価されてきた、らまのだ作品。
焦点をずらしたやりとりから、かえって浮かび上がる登場人物の本質。
惨めが滑稽に、滑稽が悲哀に。
そんな【温】と【冷】が混ざり合った独特の世界は、ちょっとカッコ悪い大人の物語。

らまのだ

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

新作書下ろしを含む、南出謙吾の新作3作品を同時上演!
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『麻酔みたいな』
出演:松本みゆき(マチルダアパルトマン)、塩原俊之
漠然とした将来への不安を抱え、女はがむしゃらに自立し武装する。
男は、痛みを知らないのか、ただゆっくりとされるがまま暮らしている。
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『あたらしいニュース』
出演:竹井亮介 宮原奨伍(大人の麦茶) 吐山ゆん 井上幸太郎 板倉哲(青年劇場)
九条改憲の国民投票が迫り、特需に沸く零細ネットメディア制作会社。
だが、納品した生地に自衛隊からクレームがついた。ねつ造の疑いがかけられたのだ。
代理店も巻き込み彼らはもはや風前の灯だ。
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『優しい顔ぶれ』
出演:田崎小春 緒方晋(The Stone Age) 
重篤な妻を献身的に看病する夫。夫は病院の外での出来事をいちいち報告する。
妻にとってそれが唯一の外の世界との窓口なのだ。
妻がかつて参加していたデモ行進のシュプレヒコールは、はるか遠くに響くだけ。

観劇のきっかけ

前回作品が面白かったからです。

過去の観劇

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

観劇日時2020年3月6日
19時30分〜
上演時間140分(途中休憩なし)
価格3600円 全席自由

チケット購入方法

劇団ホームページから、リンクをたどって予約しました。
当日、受付で前売り料金を支払いました。

客層・客席の様子

男女比は3:7くらいで女性が多め。30代以上の人が目立ったように思います。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・会話劇
・静か

観た直後のtweet

映像化の情報

情報はありません。

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ほぼ独立した、3本のオムニバス。

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『麻酔みたいな』出演:松本みゆき(マチルダアパルトマン)、塩原俊之 約30分

男女の、馴れ初めから結婚までに至る時間と、子供が出来て3歳くらいの時間が、何度か行き来する。子供は、元彼氏との子供。男は女に惚れたからか、自分の子として育てることに。保育園に通わせながら、偶然その元彼氏と出会ってしまう。…そんな時間を切り取って組み合わせた物語。

終始気だるい、何処とも居場所を定められないような空間。他人の子を自分の子として育てるほどに惚れた男と、男とは関係ないところで自立して生きていこうとする女。男はダメ男君で、生活感というか、収入を得る、みたいな感覚か何処か薄くて。感覚のすれ違いがあからさまになっていく。いや、元々すれ違っていたのかもしれない。娘が成長したタイミングで、元彼に会ってしまう男のダメさと、それを「麻酔みたい」と表現する女。そこにある男女の空気感、生活、みたいなのがリアルだった。

ものすごく嫌そうな、ダルそうな顔をしている松本みゆきは、何だか見ていてソワソワゾクゾクしてしまう。それに惚れてしまう、男の気持ちも納得。塩原俊之、若い頃と子供が成長してからのギャップ、切り替えがすごい。髪がまとまったり、ぼさっとしていたりする、変化の部分の印象が大きいのか。若い頃、求婚するあたりのイケメン具合が、これまで見た塩原俊之の役所とは少し違っていて面白かった。

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『あたらしいニュース』
出演:竹井亮介 宮原奨伍(大人の麦茶) 吐山ゆん 井上幸太郎 板倉哲(青年劇場) 約70分

憲法改憲投票の直前。小さな、ゴシップ系のサイトに書いたオモシロ記事「自衛隊員の若妻に聞く、合コンで自衛隊員をゲットする秘訣9条」なんていう、ふざけた記事に自衛隊からクレームが入る。広告代理店の美人担当者は、零細の記事制作会社「あたらしいニュース社」に笑顔で圧力をかける。制作会社の部長?は、記事を書いた担当者を諭して記事を取り下げさせようとするが、急に目覚めた正義感でそれを拒否。記事にクレームをつけたのは自衛隊というより、自衛隊OBで隊員募集のボランティアをしている老人。「あたらしいニュース社」に乗り込んで、威圧的な態度でまくしたてる。たまたまその場面を録音していた記事の担当者は、その音声を持って広告代理店と自衛隊に逆にクレームを言いに出かけていく事で、思わぬ方向に進んでいく物語。

らまのだ、こんなテイストの物語も作るんだなぁ、と思った作品。商売として文筆を売っていかないといけない「生活」の部分と、たまたま目覚めてしまった改憲に対する「正義感」の部分と、下請け会社に無言の圧力で迫ってくる資本主義の構造の軋轢とが、絶妙なバランスで全てミックスされている物語。そういった問題に、何か回答というか、答え、みたいなものがが示される物語ではないが、ああ、今ここに、そういう良く分からないモノがあるんだなぁ、というのを感じる事が出来る作品だった。

竹井亮介の「商売なんだから」という視点と、宮原奨伍の「若い正義感」の対比の掛け合いが面白い。ごく自然な会話をしているだけなのに、思わず笑ってしまう。「肛門」とか、繰り返し登場する会話も笑いを誘う。広告代理店の担当者、吐山ゆんの印象が強烈。汚い仕事は全部下請けに投げて、自分は澄ましていた顔している…っていう感じが、いかにも、な納得感。ラストに近いところで、ガバナンスとかコンプライアンスとかいう言葉を使って、前田に迫っていくのは、怖さすら感じた。

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『優しい顔ぶれ』
出演:田崎小春 緒方晋(The Stone Age)  約35分

病に伏して入院し、殆ど動けない妻。劇中ベッドに誰かいて動いているけれど、布団の中に入って姿は見えない。その妻を毎日見舞いに来る、50代後半くらいの夫。その日あった事や、近所の犬の話を妻にしている。一方、夫はどうやら衣料品店の店長で(しかもフランチャイズ系の店の様子)、そこの店員の女と不倫していて。日中妻を見舞う時間が取れるのは、その女に店を任せられる事が大きい。どうやら男は、妻と近々に別れる、と女には継げているらしい。そんな状況の中、男が、妻の病室と、女の部屋を行ったり来たりする物語。

ストーリーとして、何かが大きく展開する訳でははないんだけれど。男の心情の揺れ…不倫している女も大事だけれど、やはりこういう時は妻に少し傾倒してしまう…様。そして、男の心情を読み切ったうえで待たざるを得ない女のやるせなさが、濃密に詰まった30分。男の私の視点からすると、すごく弱い部分つつかれたなぁ、という感覚。ただベッドの横にいるだけだけれど、この日常が、突如愛おしいと感じる。ちょっと身勝手な自分を見せられたようで、ため息をついてしまうような時間だった。ベッドの中に、足を突っ込んだ時の生暖かい感じまで、伝わってきたような気がした。きっと女からすると、とても身勝手に映るんだろうけれども。近くに住む「タロエ」っていう犬の話を、男があまりに面白そうに話すのが、面白い。ダンディな緒方晋の、男の揺れみたいな感覚。田崎小春の、ビールのんで煎餅バリボリ貪り食う、サバサバ感覚が、物語の余韻として強烈に残る。
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映像含めると、らまのだ、4作目。「らまのだらしい」作品たち。・・・らまのだらしい、っていう感覚に、何か名前が付けれればいいのになぁ、という想いが増す。何の気ない会話を中心に、何の気ない日常に確実にある想いとか空気を、演劇として立体化してくれる。そんな、ズシリ、とくる時間だった。


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