<初日レポ>埋れ木 「降っただけで雨」

#芝居,#埋れ木

【ネタバレ分離】
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どもっ\(´▽`*)。てっくぱぱです。昨日観た芝居の感想です。


公演前情報

公演・観劇データ

埋れ木
「降っただけで雨」
2019/03/21 (木) ~ 2019/03/24 (日) シアター711
脚本・演出 久保 磨介(埋れ木)

観劇した日時2019年3月21日 19時30分〜
価格2800円 全席自由(事前にネット予約)
上演時間100分(途中休憩なし)
キャスト合羽チーム
Corich満足度★★★★★(5/5点満点)

客席の様子

男性7割、女性3割くらいでしょうか。男女とも、一人で来ているお客さんが多いように感じました。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観劇できる舞台です。

埋れ木?

公式ツイッターには、こんな記載があります。

主宰・久保磨介 // 俳優・新開知真、 工藤夏姫、佐瀬ののみ // 音響・工藤香菜 // 総務・原汐音の6人による演劇集団。 ''変わったことはしない'' を理念とし、 久保磨介(@masuke_k)の作り話の立体化のために活動

という事で。
劇団ホームページはなく、ツイッターが公式サイトのようです。

事前に分かるストーリーは?

チラシには、こんなストーリーが書かれていました。

街を守る正義のヒーロー。‬
‪ヒーローなくして街の平和はあり得ない。そんなヒーローが、引退を決意した。事務所の人間や警察がそれを食い止めようとする中、ヒーローが最後の仕事と決めた依頼は、男子大学生の恋愛相談だった。

私、こういう設定大好きです。
今回の観劇のきっかけは、先日アマヤドリの「天国への登り方」に出演されている、長谷川なつみさんが出演されているからです。

ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ストーリーは、チラシに書かれている通りだが、付け加えるならば。
ヒーローは、「引退」というより「辞めたい」と突然言い出した。周りの人は、いなくなると困ると困惑。男子大学生は非常に横柄で、でも憎めないヤツで。あとは、ヒーローの腹違いの妹が、ヒーローの事務所にバイトとして応募してやってくる。それに、ヒーローの助手と、事務所を支える事務員。彼ら・彼女らの物語。

暗転でシーンは変わるが、場所は常にヒーローの事務所。事務所といっても、どこか小じんまりした、不動産屋のオフィスのような雰囲気。応接セットと、簡単なキッチンと、オフィスデスクが三つ。セットが非常に作りこまれている舞台。
登場人物の会話から、どうやらこの町には、度たび「怪獣」が出現し、ヒーローが退治しているらしい。でも、ヒーロースーツも、秘密基地も、メカモノも、おおよそ連想しそうなソレらしきものは、一切登場しない。私たちの日常に「ヒーローが実在する」という一点だけがズレた世界で繰り広げられる、丁寧な丁寧な会話劇。

男子大学生の尾田をめぐるくだりは、コミカルで大爆笑だったのだが、他のシーンは、中盤くらいから非常に深刻で、しかも登場人物それぞれが、それぞれの思いやりに満ちていて。うっすらと涙しつつ、そのシーンが長く続くものだから、涙が止まらない、という、涙腺半開き状態になってしまった。非常に良い作品だった。この日私は、ハンカチを忘れてしまって、辛い思いを。

主にテーマは、二つ、あったように思う。

一つ目は、日常がいつもと違った風景に見えたとき。

ヒーローが救うのは、いつだって世界。世界とは、自らが愛する人たちのこと。幼少の時分、妹のいじめを助けてあげれなかった負い目から、世界を愛すと誓って、いつしかヒーローにまでなった兄。今や、警察までもが兄ヒーローを頼りにしている。でもヒーローだって、一人の人間だ。見ていた世界が、突然違ったものに見えてしまう事は、誰にだってある。例えば、決して解決できない矛盾に気が付いたときや、信じていたものを失ったとき、極度に疲労したとき。きっと世界は、突如として、全く違ったものに映る。ヒーローがその場面に直面して、世界を世界として見れなくなった時、何を手掛かりにすればよいのか。

視座の置き方の幅を「拡大」「縮小」のように考えた時に、最も極端な「拡大」をしたのが「ヒーロー」という職業の日常の活躍だとすると、最も「縮小」してみた時のそれは、通りかかりの大学生の、下らないけれど真剣な恋愛相談なのかもしれない。途中、「デートコースを考える事と、怪獣について話すことと、世界を救うという観点では何も違わない」、という話が出てくる。身近なものを救えなくて、何がヒーローなのか。むしろ、何かを見失ってしまったら、身近な所からやり直していけばいい。そんな誰にでも当てはまる喪失と癒しを、ヒーローというデフォルメした巧みなメタファーで描いている。このあたりのテーマは、NHKで放送していた、マイケル・サンデルの「Justice」の授業を思い出したりする。

二つ目は、生きる上での義務と責任と。

ヒーローの周りで生きるこの世界の人々は、少し迷いを持ちつつも、各々の義務と責任を、ストイックなまでに認識している。ヒーローが少し迷ってしまったときに、その周りの人たちは何ができるのだろうか。ヒーロー以外の様々な登場人物が、それぞれの視点で、悩み葛藤する。そして、ヒーローの不在を埋めようと、自らの出来得ることをしようと動き出す。立場が違えば、すべきことは異なる。そして、そこには葛藤と対立とが生まれる。劇中の殆どの時間は、この立場の違いからくる対立の議論に、費やされていたように思う。、議論したからといって、何かが変わるわけではない。お互いの想いと立ち位置を確認しつつも、ただただ、それぞれの自負や、義務と感じていることにしたがって、やはり動くのみ。その過程を示している。

結局のところ、誰もが誰かに対する「最も縮小された」身近なヒーローなのだ、と、そんな事を感じつつ。濃密な会話劇の中で、他者に対して果たすべき義務と責任は何かという事が、舞台にごくごく自然と立体化されていて、そんな情景にただ涙するしかなかった。このあたりのテーマは、中谷まゆみ脚本の「ビューティフル・サンデイ」の中のセリフ「悩みに大きいも小さいもない」を、ふと、思い出したりした。

・・・と、ここまで書いて、上手く感想が言語化できている自信が全くないが、人間に対するまなざしが非常に暖かい、秀逸な作品。脚本をゲットしたので、改めて読んで、再度、言語化をしてみようと思う。

気になった役者さんは、、、全員。頑張って全員、書いてみよ。
工藤夏姫、何だかちょっと頭の悪そうなヒーロー補佐だけれど。ヒーローがヒーロー辞める事に、しっかりといろいろと感じていて、先も考えている。やっぱり一緒に来てほしい、と言いかけて止めるあたりが忘れられない。
梅田洋輔、深刻にならないヒーローっぷりと、妹愛が印象に残る。
倉光亮輔、「べき論」で考えていくけれど、追いかけていく感情にもしっかりと気を配っている感がたまらない。個人的には、自分の性格と非常によく似ているので、一番感情移入出来た。
鈴木朝日、言うべきところを言い、突っ込んでいく感じがいい。久保田の言いたくても表現てぎない何かを、ズケズケと表現している感じ。
細田こはる、兄を見る妹の表情が最高でした。
藤本悠希、あのズレた感覚、全体的に笑いをかっさらっていって、面白い!物語としては、単に「ヒーロー」の世界だけでは息が詰まってしまいそうなところを、息抜きもする感じで印象に残る。
長谷川なつみ、留美子と適度に使命感と、ヒーローの心情を肩代わりしていて。目をまん丸くして大久保に食ってかかっている所は、よかったなぁ。

今年の観劇の中で、1・2を争いそうな、印象に残る一本。専門的な事は分からないけれど、戯曲賞とか、狙えるんじゃないかなぁ・・・。

あ、そうだ。白板に書いてあるのが、地味に面白かった。チミたち一日でお菓子食うなよ。

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チラシの裏
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