<観劇レポート>Mrs.fictions「月がとっても睨むから」

#芝居,#Mrs.fictions

【ネタバレ分離】


観た芝居の感想です。

公演前情報

公演・観劇データ

|団体名|Mrs.fictions|
|題|月がとっても睨むから|
|脚本|中嶋康太(Mrs.fictions)|
|演出|中嶋康太(Mrs.fictions)|
|日時場所|2019/08/03(土)~2019/08/12(月)
すみだパークスタジオ倉(そう)/THEATER-SO(東京都)|

劇団紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

Mrs.fictionsとは?
 主宰・今村圭佑を中心に、舞台芸術の創造と発展を目的に活動する舞台芸術創造集団。2007年8月、企画公演『15 Minutes Made』にて旗揚げ。
 『人と人とは出会わなければならない』という理念のもと、同企画を継続的に行うことを中心に活動、その理念は多くの演劇人の共感を呼び、支持を集めている。舞台芸術は、『関係性の芸術』であるという考えから、表現者と観客の関係性、表現者同士の関係性、演劇と社会の関係性をより豊かにする為の活動を模索するとともに、こうした活動そのものが小劇場演劇シーン全体を牽引するものであると考えている。

[http://www.mrsfictions.com/:title]

事前に分かるストーリーは?

劇団ホームページには、こんな記載がありました。

 19XX年の大きな月の夜、進学塾の帰り道でぼくはセーラー服美少女戦士のお姉さんに誘拐されて改造手術を受けました。一週間くらいずっと改造されていました。
 家に帰ったらお父さんもお母さんも泣いていて、知らない大人のひとたちに「こわいめにあったね」とたくさん言われたので、子供ながらに「これはおおごとだぞ」と思いました。
 けっきょく希望の中学には進めなかったけど、僕はそれから改造された体を活かして恋に仕事にと充実した毎日を送っています。
 セーラー服美少女戦士のお姉さんに会ったらお礼を言いたいです。
 だけどたまに大きな月を見上げて、もしあのとき改造手術されなかったら僕の人生はどんなだったのかなと考えたりもします。

観劇のきっかけ

前回の「伯爵のおるすばん」の評判がよかったにもかかわらずスケジュール上、観に行けなかった中、今回の公演も前評判がよいtweetがたくさん流れていたので、観劇を決めました。

ネタバレしない程度の情報

上演時間・チケット価格・満足度

|観劇した日時|2019年8月5日
19時00分〜|
|上演時間|120分(途中休憩なし)|
|個人的な満足度
[https://stage.corich.jp/user/206853/done_watch:title=CoRichに投稿]|★★★★☆
(4/5点満点)|

客席の様子

男女は5:5くらい。若い人が多い気もしますが、シニアな方もそれなりにいました。バランスの良い客席のように思います。

観劇初心者の方へ

観劇初心者の方でも安心して観る事が出来ます。

観た直後のtweet


ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ストーリーは。
小学校の頃、少し年上のセーラームーンの恰好をした少女に監禁されて、性的な虐待を受けた経験がある男。今では錦糸町の帝王とまで言われ、ラブホやホストクラブを経営し、錦糸町にはスカイリーよりも高いタワーが出来ている世界。ひょんなことから、自分の経営するラブホに、性的虐待をした女が清掃員として務めている事を知る。その女は、虐待を与えた当時の面影はなく、どこか過去の影におびえて暮らしている。セーラームーンやヒーローの影を借りながら、その男が、女が、相手を赦し、赦されるまでの、葛藤の物語。・・・と強引にストーリーをまとめるとこんな感じ。ラスト5分くらい。自分を「ヒーロー」だと言い張る男が、女の過去に怯えながらも、握手をして相手を赦す。そこまでは、楽しみつつも涙とは無縁だったが、このシーンだけで涙を流してしまった。

この物語は、赦しの物語だ。

生きている以上、自分に向き合えば向き合う程、人は人を傷つける事から無縁ではいられない。だからこそ、赦し、赦される事が、われわれ人間には必要だ。・・・というベースラインのテーマについては、観る人の殆どにとって、それ程大きな異論の余地はないとは思うのだけれど。観ていて唸ってしまったのは、同じテーマの解釈の中で、二つの「層」を準備しているのかな、と感じたこと。

浅い層は、単に「赦し」の物語。取り返しのつかないことに対する「赦し」というテーマ。ラブホの設定とか、未来設定の錦糸町とか、いつでもバイトしている同僚とか、どこかコミカルに寓話的に描きながら、「赦し」というテーマを割と表層的に描いている。表層の部分だけでも、それはそれで楽しめるのだけれど、どこか、オドロオドロシイ何かが、底辺を漂っていて、それを見逃すことは出来ず。

更に深い層は。女性の幼児性愛・・・いわゆるショタコン・・・でさえも、その赦しの対象だ、という事。おそらく、ここまで深い部分に突っ込んで描き切ってしまうと、客席には反感を持つ人も出てくる。劇場の、客席の一体感として、同一の着地点にたどり着くのが難しくなってしまうかもしれない。それでも作品としては、松野むつ子や児童施設の「錦糸町の母」に、ショタコンの性向があるという事を描きつつ、そこにも赦しがある、という事を書いている。まるで、浄土真宗の「悪人正機」のように。「ヒーロー」というモチーフを取り出して、視線を向けたくない部分を「奇麗に」描く。

私にとって、その背後に横たわる感情はものすごくおぞましいモノと受け取った。例えるなら、自分の息子が、監禁されて性的な虐待を受けたら、私は犯人を絶対に赦せないと思う。劇中の言葉を借りるなら「金属の棒で頭を」という事を考える。そういう「赦せなさ」が生まれる事は、ごくごく当然の感情だとも考える。それは、ミツ夫の一度目の握手で、「手が熱い」と言い怯えている事にも対応する。しかし物語は、作者は、「赦せない」人にでさえ(物語上の感情の過程を経たうえで)、赦せ、あるいは、赦すことを試みよ、と語りかけているのではないか。「ヒーロー」というモチーフを巧みに使う事で、とてつもなく深い人間の闇を、いい意味で、うやむやにしている。「絶対に赦せない」ものを「赦せ」と語る。・・・。そんな、芝居に思えた。

このテーマは、とても恐ろしい。最近記憶に新しい数々の凶悪事件に対して、「赦せ」と物語がストレートに迫ってきたとき、全ての客は、おそらく納得できないだろう。反感を覚えるし、下手すると「不謹慎」とか言い出す人も出る。その部分を、ストレートに表現する事を巧妙に避けつつ、ある一方から見た正しさが、どれだけの力がある事なのか、あるいは無力なのか、という事を問いかけている。ショタコンにだって、自分の幸せを突き詰めながら生きる権利がある。その事を認めた時、人はお互いに傷つけない、という前提は、もはや不可能だ。だからこそ、傷つけたうえで、「赦す」努力が必要なんじゃないか、という事を、理解の「層」を用意したうえで、客の許容度に合わせてあわせて投げかけているのではないか。その意味で、勝手に深読みしているかもしれないと思いつつ、ここまでメタファーを通さないとこの事を語れない現状に、若干の絶望を覚えもする。

・・・と、ここまで書いたところで、パンフレットやチラシを詳しく読んでみる。意図して、層構造を取っていたかはよく分からなかったけれど、作者の物語の意図としては、大きく外れてはいないのかな、と受け取った。

気になった役者さん。真嶋一歌、いろいろ出てきたけれど、冒頭のセーラーVナントカいうのが一番グッときた(笑。こんなの続いたらドキドキだと心配した。でも、作品としては、あの魅力は、ミツ夫の体験を暗に示していて正しい。中盤は、オドオドさと、あまりにも現実的にはなりすぎないショタコン、という、微妙なバランスが良い。岡野康弘、カッコいい。ラスト、握手するところ、カッコいい。佑木つぐみ、オミユキ、メインのストーリーラインには絡んでこないけれど、あの二人が背負っているものに現実味があったからこその、層構造かな。なんか何処となく全体的にエロスを捨てていないのが、その雰囲気を作り出していた。

チラシの裏

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