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【観劇レポ】フジテレビジョン・ミュージカル「サムシング・ロッテン!」

#芝居,#フジテレビジョン

【ネタバレ分離】 フジテレビジョン「ミュージカル「サムシング・ロッテン!」」の観劇メモです。

初回投稿:2025年12月30日 15時04分
最終更新:2025年12月30日 15時04分

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名フジテレビジョン
ミュージカル「サムシング・ロッテン!」
脚本ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
演出福田雄一
日時場所2025/12/19(金)~2026/01/02(金)
東京国際フォーラムホールC(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

フジテレビの企画公演です。

サムシング・ロッテン2025

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

ルネサンス時代のイギリス。売れない劇作家であるニック(中川晃教)は弟のナイジェル(大東立樹)と共に自身の劇団を運営していた。時代の寵児であり、スーパースターの劇作家シェイクスピア(加藤和樹)にニックは対抗心をむき出しにするが、劇団運営に行き詰まり、妻ビー(瀬奈じゅん)の目を盗んで予言者ノストラダムス(石川禅)のもとを訪ねる。そして、彼のお告げに従い、世界初の歌って踊る「ミュージカル」を書こうと決意するのだった。

その後もノストラダムスのもとへ通うが、出てくるのは頼りない予言ばかり…ヒット確実な作品タイトルは「オムレット」(実は「ハムレット」の間違い)だと言われ、ニックはミュージカル「オムレット」を生み出すために悪戦苦闘する。作家の才能を秘めている弟のナイジェルは、兄の言うことを聞きつつも「卵の物語なんか書きたくない!」と思い悩む。そんななか、出会った美しい清教徒の娘ポーシャ(矢吹奈子)と恋に落ち、新たなインスピレーションが生まれていた。

一方、「ロミオとジュリエットに続く大ヒット作を書かねば」と人知れず思い悩んでいたシェイクスピアは、以前からナイジェルの才能に目をつけていて、彼からなんとか次作のアイデアを得ようと画策する。「トービーベルチ」と名乗る役者に化け、ニックの劇団に潜入し、後の大ヒット作となる「ハムレット」の土台となるアイデアをどんどん盗んでいくが…


サムシング·ロッテン!とは
タイトルの“Something Rotten!“=サムシング・ロッテン!とは直訳すると「何かが、腐っている!」という意味。これはハムレットの一節”something is rotten in the state of Denmark.”を思わせるタイトルですが、本ミュージカルはこのように複数の戯曲、ミュージカル作品へのオマージュが随所に登場するコメディミュージカルです。

1990年代にケイリーとウェインのカークパトリック兄弟のアイデアから始まり、2015年にブロードウェイにてオープンしました。当初はシアトルにて五番街劇場で試験興行する予定でしたが、内容が評価され、すぐにブロードウェイでの上演が決まり、現在は全米をツアー中です。「コーラスライン」、「アニー」、「レ·ミゼラブル」などの人気ミュージカル作品や、シェイクスピア作品を彷彿とさせるシーンの数々が、舞台·ミュージカルファンの心をくすぐるとして話題になり、2015年のトニー賞では9部門10ノミネート、うち1部門を受賞いたしました。

今回は2018年の日本版初演から7年の時を経て、再演が決定いたしました。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2025年12月29日
13時00分〜
上演時間185分(途中休憩を含む 休憩 95-休20-70)
価格S席 15000円 全席指定

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。

感想(ネタバレあり)

フジテレビジョン・ミュージカル「サムシング・ロッテン!」

シェイクスピアが頭角を現わしていた1590年頃。かつて同じ劇団にいたシェイクスピアに脚本を書くことを勧めたニック・ボトムは、自分の劇団にもヒット作が出ないと経済的に不味い状況に追い込まれていた。詩を書くのが得意な弟のナイジェルと奮闘するも難しい。そこで預言者にシェイクスピアの最高傑作を予言・未来予知させて、その内容をパクって上演することを思いつく。預言者はシェイクスピアの最高傑作は「ムレット」という「ミュージカル」だという。ミュージカル…劇中に感情を台詞ではなく歌で歌う舞台が、未来では大ヒットしているのだと言う。預言者の未来予知は確かに未来を見ているものの…内容が正確ではなくていろんなものがごちゃ混ぜに。当たるはずもない、オムレツを主題にしたヘンテコなミュージカルがが出来上がる。一方「オムレット」を創る事に疑問を持つ弟ニックはソネットをたくさん書くが、シェイクスピアがそのソネットを盗作すべく劇団に出入りしていた。かくして滅茶苦茶なミュージカル「オムレット」が幕を上げる…という物語。

日本では2018年にフジテレビ主催で上演されていて二度目の上演のようだが、私自身は作品初見。2015年にオン・ブロードウエイして、トニー賞にも何部門かノミネートされている作品。ストーリーの内容からもとにかく荒唐無稽なコメディだが、同時にどこかもの悲しさも漂う作品。というのも、ブロードウエイでそれなりに評価された作品であるにもかかわらず、結局はシェイクスピア以上の戯曲は誰にも書けない…という、万人が認めざるを得ない背景のストーリがあるからかもしれない。気が付いただけでも30作品くらいのミュージカルのパロディが随所に散りばめられているし、あるいはシェイクスピア作品のオマージュが多数盛り込まれていて、演劇好きならかなり笑えるにもかかわらず、同時に創作する事への辛さみたいなものが、シェイクスピアを笑いのネタにするアイロニーとして展開する。「オムレット」…オムレツをメインにするミュージカルの馬鹿馬鹿しさも相まって全体的にはもの悲しいが、その通奏低音としての物悲しさが、作品に良いスパイスになっているのが面白い。

劇中に登場するシェイクスピアは、どこかロックシンガーの「クイーン」あるいは「プリンス」「エルビス・プレスリー」のようなキャラクターにパロディされていて、ヘビメタの革ジャンか、金色のスーツ服で登場してキザな男。(彼が歌い上げる二幕の曲"Hard to Be the Bard"は、"Killer Queen"のパロディだよね…と思ったけれどそういう記載をネットで探しても見つからず。私だけが思った?)。ボトム兄弟はどうやったって勝てないし、しかもシェイクスピアはマジ嫌な奴で盗作までしてくる。物語のラスト、恋したピューリタンの娘も一緒?にアメリカに追放されて、そこで新たに「ミュージカル」という文化を創る…みたないストーリーは皮肉が効いているが、やっぱりどこかシェイクスピアには勝てはしない…みたいな劣等感を感じずにはいられない。劣等感があったとしても、ぼくたちはミュージカルで人を楽しませるのだ、という少し悲壮な、でも確実な覚悟のようなものまで聞こえてくる作品だった。

ミュージカル作品のパロディの数が凄い。人間が猫の姿をして(「キャッツ」)、西の魔女と闘いながら(「ウィキッド」)、パペットを操作して(「アベニューQ」)、顔写真付きの履歴書を顔に当て(「コーラスライン」)、バケツを持って床掃除をして(「アニー」)、複数のサスの輪の中で人生の季節を歌い(「レント」)、劇場に住む仮面の怪人が歌い(「オペラ座の怪人」)、傘を持った貴婦人が出てきて(「メリーポピンズ」)、スカーという王様が登場し(「ライオンキング」)、サイゴンの街をヘリコプターで離れる(「ミス・サイゴン」)。…気が付いた分だけでも全部書き切れないし、これが全てではない。ミュージカルファンにはたまらないし、小ネタが出てくるたびに思わず笑ってしまう。たまたま私の隣に座った女性もミュージカルファンだったらしくて、顔を見合わせて一緒に爆笑していたのだけれど、客席がそれ程湧いている訳ではなかったので(例によって私の笑い声だけ目立つ感じ)それほどミュージカルに詳しい人が客席にいる…という訳ではなかった感じ。ミュージカルの小ネタを知らない人は、どのくらい楽しめたのかなぁというのは気になった。これらのミュージカルパロディが凝縮している一幕の曲、"A Musical"は、皮肉なパロディとレスペクトのバランス加減が最高。今後ヘビロテして聞いてしまいそうな曲になった。