<観劇レポート>優しい劇団「どうしようもなく、別れ」

#芝居,#優しい劇団

【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 優しい劇団「どうしようもなく、別れ」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名優しい劇団
第四回本公演
どうしようもなく、別れ
脚本尾﨑優人
演出尾﨑優人
日時場所2022/01/05(水)~2022/01/08(土)
ナンジャーレ(愛知県)

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

名古屋を拠点に活動する劇団。
2018 年 9 月に尾崎優人を中心に、1999 年生まれの同級生で旗揚げ。
「俳優の特権的な肉体とかつて見た風景の視覚的リメイク」を一貫したテーマとして掲げ、
「人の心の涙を拭う演劇」をモットーに活動している。
劇団員は、尾崎優人、大岩右季、石倍舟太、千賀利緒、小野寺マリー、橘朱里、石丸承暖の7人。
公演ごとにキャスト・スタッフを迎えて活動している。

優しい劇団

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

名古屋の歓楽街〈 東新町 〉
そこでは 演劇 で勝敗を決める奇妙な親子喧嘩が行われていた。

東新町の夜の街の住人からなる素人劇団と、かつて名古屋を騒がせた伝説の劇団。

この戦いに巻き込まれた人々は、自分の人生にスポットライトを当てようともがき始める。

これは、夢すら見れない今の世の中に送る、波乱万丈かもしれない人たちの別れの物語。

二〇二二年新春、優しい劇団があなたに贈る、熱く切ない応援演劇。
ぜひ劇場で、音と光と役者の熱気をご体感ください。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2022年1月5日
19時00分〜
上演時間135分(換気休憩5分を含む)
価格2000円 全席自由

チケット購入方法

劇団ホームページからのリンクで、予約しました。
事前決済を選択し、Passmarketで決済しました。

客層・客席の様子

男女比は5:5くらい。
20代の男女と、40代くらいの男性、といった感じの客席でした。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・コメディ
・笑える
・シンプル
・賛歌

観た直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

新年最初の演劇は、名古屋から。初見の劇団。同劇団の過去作品、野外劇の様子がよくtwitterでレポされていて、面白いらしい、という噂を聞いていて、興味を持った。年始のまったりムードな時間を利用して、名古屋まで足を延ばした。

基本は素の舞台。衣装は全員スーツで、シンプル。なのに、ものすごい速度のセリフと、さらに凄い運動量で語られる芝居。役名のプラカードを持った役者は、一人が何役も演じ分ける。テーマは、自分の短所への愛おしさと別れ。そして、演劇への愛。…言ってしまえば、それだけ、なんだけれど。年初の寒い日、これでもか、という位にアツいエネルギーで、今への愛おしさ、と共に迫ってくる作品。初めて行く劇場「ナンジャーレ」は、土足厳禁で素足で入るので、客席にいてもちょっと足元が寒い。・・・いやでも、もし夏に観たら、これは熱気で凄い事になっていただろうな。冬でよかったな、なんて事を思う。(まあ、汗まみれでスーツの背中の色が変わっていくのも、それはそれで観てみたいけれど)

過去の様々な演劇作品、映像作品のパロディ・オマージュが、これでもか・これでもか、という位、メガ盛りで出てくる。細かすぎて、拾ったやつも全部を覚え切れていないけれど。パっと思い出せるのは、ドラマ「スクールウォーズ」や(山下真司!懐かしい)、ミュージカル「ジーザス・クライスト=スーパースタ」「レ・ミゼラブル」「コーラス・ライン」などなど。劇中に登場する劇団は「3××」(さんじゅうばつ)だし。(渡辺えり子の「劇団3○○」(さんじゅうまる)のパロディ。ちなみに代表作は「ゲゲゲのげ」)加えて、中屋敷法仁の柿喰う客の、早口と素早い動きテイストを加えたような感覚が加わったり。首から下げるプラカードで役を入れ替えていくのは、どこか惑星ピスタチオのような気もする。冒頭のあいさつはひょっとして「あんよはじょうず。」なのかな(考え過ぎか、更に元ネタがあるのか)。高橋いさをも意識しているかな、とか。

…パロディ・オマージュ。気が付いた分をメモしておけば良かったと後から思う。あるいはこれだけたくさんの作品を意識していると、こっちの勝手な勘違いなのかもしれない。ただ、過去の巨人たちの肩に乗る、ものすごい情報量なのは、確か。一方、基の物語を知らなきゃ分からない…なんていうオタク感覚を煽るのとは無縁で。知ってても知らなくても、細かく笑いを取りつつ、今ここに、巨人の肩から、別の物語を織り込んでいく感覚。

中でも、強烈に意識する基の物語は、第三舞台 鴻上尚史の「朝日のような夕日をつれて」。途中で、頭脳警察の「万物流転」で、キャッチボールの有名なシーンがオマージュとして展開されて、ちょっとのけぞったり。おしり振るのも、きっとそうだよな。そういえば、「朝日…」の衣装もスーツonlyだった。今回は、ちょっとリクルートスーツっぽい、若い人の着るスーツ。「朝日…」の若い版、「朝日産んだ子供」版、なのかな。開演に寄せての作者の言葉に、鴻上尚史やつかこうへいの名前があるけれど、きっと、これらオマージュとして登場するすべての作品を愛していて、鯖を引きずりながら、演劇として、ここにたどり着いたんだろうな。あるいは、第三舞台の、鴻上尚史のパクリだ、と揶揄する人も出るかもしれないけれど。この大きな愛を感じてしまうと、とてもそうは思えず。

ラスト「それっぽい音楽流して、それっぽい台詞を入れれば、物語は何とかまとまる!」っていう、乱暴だけど、ズバリと演劇の本質を突く落し方(笑)。ふと、物語なんて、所詮は涙を拭くハンカチ、「賛歌」に他ならない、なんて言葉を思い出す(・・・とこの感想を書き終わった後、劇団紹介をホームページからコピペしたら、正にそう書いてあった・・・)。いわばこの物語は、令和4年、2022年の「賛歌」。インターネットの発達で、これだけ情報量と物語が氾濫する時代の中にいて、オマージュを折り重ねて新たなものを作るのが、ひとつの「賛歌」の形なのだろうけれど。・・・この劇団が、作者の尾﨑優人が、自らの言葉で語る賛歌も、作風として取り得るのであれば、観てみたいなぁというのを感じた。

役者さん、これだけの情報量を咀嚼しつつ、しかも、2時間15分、身体を酷使し続ける演劇。身体表現が際立つ舞台。同時に、これだけの長時間でとてもシンドイ舞台のはず(初舞台の人が何人かいたけれど・・・マジか、と思った。)。ふと、第三舞台の役者、小須田康人が、何かのDVDのオーディオコメンタリーで「役者は、作者の言いたい事なんて理解してなくて、ただ(脚本として)来たものを舞台で打ち返すのが精いっぱいだった」って言っていたことがあったのを思い出す。正に、打ち返すのに必死。…そんな感覚なのかな。若さがみなぎる…なんて陳腐な言葉にはとても収まらない演劇だけれど、でもやはり、エネルギーに満ち溢れていて、愛に溢れた作品の客席への打ち返しが、見事に成功していた。

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