<映画レポート>「アルプススタンドのはしの方」

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<映画レポート>「アルプススタンドのはしの方」

昨日みた映画「アルプススタンドのはしの方」の、鑑賞レポートです。

映画情報

あらすじ

高校野球夏の甲子園大会一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。夢破れた演劇部員・安田と田宮、遅れてやってきた元野球部・藤野、帰宅部の成績優秀女子・宮下。安田と田宮はお互い妙に気を使っており、宮下はテストで吹奏楽部部長・久住に学年一位を明け渡してしまったばかりだ。藤野は野球に未練があるのかふてくされながらもグラウンドの戦況を見守る。「しょうがない」と最初から諦めていた4人だったが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開と共にいつしか熱を帯びていき...。

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.5/5.0点満点)

鑑賞直後のtweet

ここから先はネタバレあり。注意してください。

感想(ネタバレあり)

感動した!

とても感動したのに、結末が気に入らない。

結末で。結局は「はしのほう」の人にもいつかは光が当たる、という結末になってしまっている。「頑張って続けたら、光が当たったはしの方の人」の話に見えてしまう。それがどうにも気になる。大多数の「はしのほう」の人は、続けても「はしのほう」のままなのだ。決して光なんて当たらないのだ。そんな結末、要らないのだ。だって、大多数の人の青春は、はしの方のまま、終わっているのだ。

一方、結末とは裏腹に、映画全編は「はしのほう」の人の葛藤を中心に、かつ、とてもリアルに描いている。なんだか、このちぐはぐさが気に入らないのだ。

結末を除いた場面。「はしのほう」の人の葛藤だったり苦悩を描いている場面。涙を止めるのが大変なほど、感動だった。青春に対して、きっと大多数の人が自分は「はしのほう」だったという苦悩みたいなものを持っている。青春時代、何かに打ち込めば打ち込むほど、こういう思いは産まれてくる。劇中のインフルエンザのような、どうしようもない事。誰かを責めようと思えば責められるけれど、責めたところでどうなるのだ、という事。やり切った感と、結果にたどり着かなかった無念。その「はしのほう」の、どうしようもない思い。本来、「はしの方」の姿をど真ん中に描いている事に、自分自身の青春を重ね合わせずにはいられなかった。

また、折しもコロナ禍の真っただ中の公開。今年の高校演劇の大会は、Webでの開催が相次いだ。劇中、インフルエンザで大会に出れなくなってしまったあすはの演劇部だが、全国に進んでいても、コロナ禍では上演が叶わなかったかもしれない。高校生が、若い人が、自分たちが歩んできたのと同じようには、青春のエネルギーを爆発できない環境にいる今の状況は、嫌がおうにも「はしの方」という感覚を持ってしまう人が多いだろう。その事を思うと、さらに、この映画には深く感じ入ってしまう。

野球場、アルプススタンドの一角の話。後述する原作との兼ね合いもあるが、映画化の段階で野球シーンを一切出さない選択をした点、私はとても効果的だったと思った。twitterなどでの感想は賛否両論流れていたけれど、やはり「はしの方」を中心にしようと思うと、一度でも野球シーンを出してしまうと、「はしの方をど真ん中に」の意味合いが曖昧になってしまう。映画としては、ある種の不自由さを産み出してしまうので、悩みどころだったのかもしれないけれど、この点を忠実に守った点だけでも、原作のファンは納得するのではないか、と思った。

もう一つ残念だったのは、撮影している場所が、どう見ても甲子園には見えない事。どう頑張ってみても、都道府県の予選大会の風景なのに、セリフだと甲子園っていう体で進む。「あれ、俺何か大事なセリフ聞き逃したかな」という迷いがちょっと生まれてしまった。後々いろいろ読むと、甲子園での撮影許可が下りなかった模様。撮影場所は神奈川県の平塚球場。私は同じ神奈川の等々力球場じゃないかな、と思ったのだけれど、違っていた。致し方ないけれど、残念。物語として、地方の予選の物語に改変してもよかったように思った。改変しても十分成立していたと思う。

ところで、作品は、2017年の高校演劇の全国大会の最優秀作品の、映画化。高校演劇が映画化される事が、まず何よりうれしい。私は、舞台版は一切見ていないが、おそらくは、アルプススタンドのはしの方がセットで組まれた、シンプルな会話劇だったのだろうと思う。その観点からも、野球のシーンは一切出なかったのがよかった。2018年の最優秀作品「フートボールの時間」も、映画化目前らしい。こちらは、NHKが放送しているのを見て、涙してしまった。こちらも期待して待っている所。


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