<観劇レポート>劇団チョコレートケーキ 「帰還不能点」

#芝居,#劇団チョコレートケーキ

【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名劇団チョコレートケーキ
第33回公演
帰還不能点【東京公演 開演時間変更】
脚本古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
日時場所2021/02/19(金)~2021/02/28(日)
東京芸術劇場シアターイースト(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

2000年、駒澤大学OBを中心として結成。
劇団名の由来は「チョコレートケーキ嫌いな人っていないよね」というピュアな心意気。
その後、2008年までその名に恥じない緩やかなコメディを年1~3回のペースで上演。

2009年、劇団員古川健の劇作による「a day」を上演。

2010年、「サウイフモノニ…」から日澤雄介が演出を担当、現在の製作スタイルを確立。
あさま山荘事件の内側を独自の物語で切り込んだ「起て、飢えたる者よ」以降、大逆事件やナチスなど社会的な事象をモチーフにした作品を作り続けている。
緻密な調査に基づき描かれる古川健の劇作と、ハードな台詞表現の内に、人間味を凝縮させる日澤雄介の演出が加わり、ある種の極限状態にいる者たちの存在に肉迫していく。負荷に炙りだされる様にして生まれた俳優の衝動を純度の高い感情表現まで昇華させ、硬質ながらも生々しい人間ドラマを展開していく。

2014年、大正天皇の一代記を描いた『治天ノ君』で、第21回読売演劇大賞選考委員特別賞を受賞。

2015年には劇団としての実績が評価され第49回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞。

海外の芸術祭への招聘など、国内外から多大な注目が寄せられている

劇団チョコレートケーキ

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

1950年代、敗戦前の若手エリート官僚が久しぶりに集い久闊を叙す。
やがて酒が進むうちに話は二人の故人に収斂する。

一人は首相近衛文麿。
近衛の最大の失策、日中戦争長期化の経緯が語られる。

もう一人は外相松岡洋右。
アメリカの警戒レベルを引き上げた三国同盟締結の経緯が語られる。

更に語られる対米戦への「帰還不能点」南部仏印進駐。

大日本帝国を破滅させた文官たちの物語。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2021年2月19日
18時00分〜
上演時間125分(途中休憩なし)
価格4000円 全席指定

チケット購入方法

劇団ホームページからのリンクで、CoRichのサイトで予約しました。
当日、現金で支払い、指定席券をもらいました。

客層・客席の様子

男女比は7:3くらい。シニア層男性が多い印象でした。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・会話劇
・考えさせる
・シンプル

観た直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

こんな作りの芝居、あまりみた事がない。面白い空間の作り方で、そこにいるだけで、次第にワクワクしてしまった。振り返ってみると、オッサン9人が、飲み屋で昔話をして、小芝居打ってるだけ、という冷めた見方も出来るけれど。実在の機関「総力戦研究所」で1941年、太平洋開戦前に共に学び、机上シュミレーションで、日米が戦争した時の日本敗北を予言していたエリートたちが、1950年ごろに一堂に会して、過去を振り返る物語。ラストに語られる「戦争を止めるために、自分に出来ることはなかったのか?」という問いかけ。あるいは、その問いかけを己に問い続けることが大切、というテーマ。とても響いた。そんな芝居だった。

第二次世界大戦の前後の日本。歴史の詳しい部分は分からないものの、日本が太平洋戦争に向かっていく時の様子を、フィクションとはいえ(あるいは、「総力戦研究所」のメンバーの想像とはいえ)、巧みに見せていく劇中劇。いわば素人の演じる劇中劇を演じるのだけれど、政治家や軍人の真似が、実際の人物を見たことがないのに、想像できる不思議。迫力。居酒屋での劇中劇に、気が付くと魅了されている。そこから、第二次世界大戦に至る歴史を学びながら、なぞることも出来た。

面白かったのは、東條英機の、研究所の面々が出した敗戦予想への反応が、歴史をたどる前と、たどった後で、違って見える事。簡単にいうと、例え敗戦予想が正しかったとしても、東條英機には彼なりの事情があった。正しい予想を基に、正しい行動が促されるか、というと、必ずしもそうではない。そこに、大人の事情と言えばいいのか、同町圧力と言えばいいのか、戦争が起きてしまうどうしようもなさ、みたいなものがある。劇中のセリフにもあったが、日本人の民族性みたいなものも垣間見れてしまう。

見ているうちに思うのは、他人を描く劇中劇ばかりで、ここに生きている人々、実際の彼らはどんな人なのか、あまり見えてこないな、という事。60分を過ぎたくらいで、劇中劇のパターンに慣れがきた頃にそんな事をぼんやりと思う。そうするうちに、病に倒れて2年前に死んでしまった、研究所の仲間の妻に焦点が当たる。

私には、死んでしまった夫(名前を忘れてしまった)の生き様は、理解できるようで、どこか遠い存在でもあった。確かに、己に問い続けることは大事だ。でも、劇中、理解できないと言っていた同僚の言う通り、過去ばかり見ていても前には進めない。あるいは、若くて、何かが出来る程の力がない頃の出来事に対して、責任を云々されるのも納得がいかない、というのもよく分かる。人の生き方、価値観、それぞれの役割、天命に応じて、自分で答えを見つけていかないといけない事なのだろうけれど。

ただ、人として、決して超えてはいけない線、…例えば戦争を煽動するとか…はあるのだ、という事も、また真実なのかもしれない。そこまでは全く回想劇に参加してこなかったのに、突如、残される者の想いを語る道子。客席が、水を打ったように静まり返っていた。あのシーン、戦争の時に男を送り出す女の姿は、これまでも、戦時中を扱ったドラマなんかで見たような、ステレオタイプの流れであるにもかかわらず、とにかく涙が止まらずに困ってしまった。その話をきっかけに「自分たちの言葉」を語り出す、「総力戦研究所」の面々たち。それまでの酒を飲んでいるシーンも活き活きとしていたけれど、さらに活き活きとした、でもどこか悔しさの混じった表情が、印象的だった。

印象に残った役者さん。東谷英人、東京夜光「BLACK OUT」で拝見して気になってる役者さん。役所全く違うけれどカッコいい。緒方晋、iaku「The last night recipe」で拝見して気になっててたけれど、ちょっと独特の関西弁と、吹っ切れた感じの演技が好き。