2019年上半期、勝手に観劇ベスト8

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誰にも頼まれていないけれど、2019年上半期、勝手に観劇ベスト8。



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2019年上半期に観た芝居、75本の中から、ベスト8を選んでみました。
上半期に観た芝居リストはこちら

8本にしたのは、上位1割くらい、の意味からです。

あくまで、個人的な印象の大小を比較しています。

観劇した順番です。

上半期ベスト8(観劇した日付順)

(1月28日) 神奈川芸術劇場「出口なし」

f:id:techpapa:20190128214854p:plain:w150:right半年経っても印象に残っているのは、エステルを演じる中村恩恵さんの美しさと、初めて知ったサルトル「出口なし」の物語の奥深さ。

中村恩恵さんは、あまり情報がなくて…いや多分、ダンス関連の情報感度が低いので、私が上手く見つけられていないのではないかと思うのですが。彼女を見に、観慣れぬダンスとか見に行きたいと思ったくらい、恋した感じだったかもしれません。

恥ずかしながらも初「出口なし」。サルトルの描く地獄は、とても印象的で、かつ意外ながら、どこかで聞いたことがある話でした。おそらく私の好きな物語は、「出口なし」を下敷きにして創られたものが多いのではないか、と気が付きました。この芝居の観劇以後、私の芝居の感想の記事の中に、この作品に対する類似の指摘が、多く出てきたように思います。

この芝居に、「こんな奇麗な地獄は、あり得ない」とTwitterで指摘されていた方がいました。数々の「出口なし」の舞台を観られている方のようでしたので、そんな観方もあるのか、と思いました。気になったのでフォローさせていただいたのですが、かなり的確にいろいろな事を発信されている方で、思わぬ収穫でした。

(1月31日) theater 045 syndicate「ヨコハマ・ヤタロウ」

f:id:techpapa:20190130182422p:plain:w150:rightこの日は、最前列で観ました。B1の最前列っていえば、もう手を少し動かせば役者さんに触れられる位置なんですけれど、そこに転がり出てきた褌姿の、今井勝法さんの姿は、おそらく死ぬまで忘れられないです・・・。あの生々しい、生きた感じと迫力に、心底、魅了されました。

今井さんだけでなく、荒廃的な世界観と、女優さんの美しさが眩しくて。シルエットでセックスをみせるシーンがあったんですが、エロスと共に美しさがあって、こちらも忘れられず。マチネでしたが、B1を出た後、外の現実の光の中に戻るのに、しばし苦労した作品でした。

今でもたまに思い出すと、またあの空間に戻りたい、と、感じる事があります。

(2月15日) 塩原俊之自主企画興行「AFTER塩原JUNCTION」

f:id:techpapa:20190214142217p:plain:w150:right私の大好きな三谷幸喜の「笑の大学」を、ふざけてモジった「笑の太字」タイトルを目当てに観に行きました。

どこかの台詞じゃないですけれど、「この台本を考えた男の知恵に心底、感心した」という言葉に尽きます。「笑の大学」はもちろん大傑作だけれど、この作品への愛と、悔しさと、その作品を凌駕しようとする試み、そしてその作品を作る過程が、そもそも原作の「笑の大学」のテーマそのものでもあることに、心底、打ち抜かれました。初演の映像が観劇三昧で観れるので、何度も観てしまっています。

この作品キッカケに、塩原俊之さんにハマり、アガリスクにハマり、松本みゆきさんにハマり、たすいちにハマり、大和田あずささんにハマり・・・、と、その後のキッカケもくれた芝居でした。ちなみに最近、淺越岳人さんと、松本みゆきさんが、それぞれ、別の舞台の客席で、期せずして隣に座る事がありまして・・・何だか私的には大スターが隣にいる、というので、生きた心地がしなかったです。

(3月18日) 演劇ユニット 巨乳の彼女を創る「チンチンの冒険」

f:id:techpapa:20190319092801p:plain:w150:right3ヵ月経って、詳しいストーリーは忘れてしまっていますが、「ああ、演劇ってライブだよなぁ」というのを、まじまじと味わった作品でした。

リビドー・・・なんて言葉は、日常あんまり使わないので、正しい用法・用量なのか、よく使い方が分からないけれど。敢えて使う言葉「リビドー」を、物凄く誠実に、健全に、丁寧に、そして実は抑圧的に、表現していたように思いました。例えば、「カップル割り増し料金」ですが、「彼女連れは出ていけ」とストレートにしない分、本当に健全で抑圧的な表現、と気が付きました。

リビドーを不健全に表現したら、単なる「エロ」になりますが。・・・まあそれも表現としてはアリだけれども、一般に人を呼ぶ演劇としては、チト成立し難い気もします。方や、未成熟の適当な表現・・・要は表現者が下手なら・・・それは不誠実に映る。この作品は、肉体表現はキレッキレで、内容はともかく観ていて楽しい(肉体美、とは異なるのでその点は注意)、その中で「リビドー」を表現していたのがよかったのかなと思います。・・・とはいえ、論評し過ぎちゃうと、それはそれで詰まらない部類ので、とにかく観て感じろ、な芝居でしようかね。

個人的には、「客イジリ」は芝居としては禁じ手だと思います。が、この表現なら、イジるのは仕方ない、とも思いました。矛盾している?例外を認める?・・・はい。まあ、イジられたお客さんが、二度と劇場に来ないなんて事がないように、慎重にしてもらえればと。

(3月21日) 埋れ木 「降っただけで雨」

f:id:techpapa:20190320180857p:plain:w150:right義務感・正義感と、日常との接点みたいな感覚をものすごく突きつけられて、観ていて苦しいんだけれども、涙が止まらない。しかも大泣きというより、チョロチョロ涙。そんなお芝居でした。

丁度、少し首を動かすだけで、客席の半分くらいが見渡せる位置に座ったのですが、みんな赤い目をして観劇しているのも印象に残っています。観劇後、共感する感想がかなり盛り上がっていて、自分の事のように嬉しく感じていまし。専門的な事は分かりませんが、岸田國士戯曲賞とかの選考に上がってもいいんじゃないかな、と個人的には思っています。次の公演が8月末なので、楽しみにしています。

これまで何度か見ている「戦隊モノ」をモチーフに日常を描く構造、個人的には大好きなんだなぁと気が付きました。

(5月9日) MCR「死んだら流石に愛しく思え」

f:id:techpapa:20190510003452p:plain:w150:right二ヶ月経っても、トラウマのように心に引っかき傷を残してきた作品です。シリアルキラーヘンリー・リー・ルーカスをモチーフにした作品。道徳とか、日常生活の枠で考えれば、二人のシリアルキラーは当然トンデモない奴なんだろうれど。誰かが誰かを殺すにはそれ相応の理由がある、という視点での物語の積み上げが、ものすごく緻密。

シリアルキラーとまではいかなくとも、自分の中にある闇みたいなものと、対峙を迫られる作品でした。物語全体が、ある女性の空想として語られているのですが、その女性が物語を夢想したきっかけが、「貴方は、一生誰からも愛されないし、愛せない」というような言葉が発端になっていました。言葉の呪いって怖い、という思いを持ちつつ、私はどんな呪いにかかっているのか、あいは、私は自分の息子にどんな呪いをかけているのか、などという事を考え出すと、止まらなくて。その感情が本当にやり場がなくて、という救いがたい状況に陥りました。

観劇後、感想が真っ二つに分かれていたように感じて、何かの闇に対峙を迫られるのってとても辛いことなんじゃないかな、と、ネットの海を彷徨いながら感じました。もし、友人や恋人の誘いで、春の夜を観劇で楽しむ・・・なんて感じで劇場に行っていたら、かなりトラウマになったんじゃないだろうかと思います。それ位、表現としての刃物、の切れ味が抜群でした。

観終わって、少ししてからチラシを整理していたら、裏面の「手」に気が付きました。舞台のラストシーン。何を掴みたかったんだろう、なにが掴めなかったんだろう。今でも、この作品の「せい」で、矢井田瞳をヘビロテする日があります。私も、彼の母親の奴隷にされてしまったのかな。

(5月23日) TEAM 6g「YELL!」

f:id:techpapa:20190523092548p:plain:w150:right劇場であそこまで泣いたのは、初めてかもしれません。観た直後の感想を読み返してみると、かなり支離滅裂で・・・。もしも死んだ人が、その場面をもう一度やり直すことが出来たら…という、私の好きなパターンの話に、ど真ん中ストライクにヒットする作品なんだと思います。

今思い返すと脳裏に浮かぶのは、役者さんの早送りのコミカルな動き、村の人と旅行者と国土交通省の人々。そして最後に、ソバを食ってけと言った父親の表情。そんな事を思い出すばかりで、やはり細かい批評めいた事を書くことがでそうにありません。劇場で、感情を解放させてくれてありがとう、という感じでしょうか。もう少し距離を置けたら何か語れるかもしれないので、その時のために、ぜひ映像化を期待します。

(6月12日) やみ・あがりシアター「こっちみてるの、しょうこ」

f:id:techpapa:20190609235414p:plain:w150:right初日に見て思ったのは、きっと賛否両論だろうなぁという事でした。でも、予想は外れ、大絶賛。伝わるよなぁ、うんうん、と思って安堵してました。・・・何故私が安堵するのか、よく分からないけれど。

まだそれ程時が経っていませんが、たまにフラッシュバック的に思い出す、しょうこのシーンが二つ。
一つは、しょうこの顔、それも「透明なガラスです」と言って、何もない、ただの枠だけを持ってきときの、彼女の表情。ガラス工房の職人に「病院」を勧められて、硬直したように立っている、しょうこ。あの辛そうで、不安そうで、マヌケで、でも精一杯な表情。それまでのスタイリッシュなしょうこ、とは全く違っていて、忘れられない。
もう一つは、マフィンのさす傘の中に、しょうこが入っていくシーン。結局、宿なしで表現なんて出来ないって事なのかな。船乗りは、船を女性名詞で呼ぶけれど、それと同じ。結局帰る場所が必要なのかな、とも思った。

作・演出の笠浦静花さんに興味を持って、どんな人なのか調べてみまし。やっぱり「しょうこ」は、彼女の表現そのものを表しているんじゃないかなぁ、という初見時の感想を裏付けてくれるものでした。今後も期待です。

次点(観劇した日付順)

ベスト8の次点になった作品はこちら。

(1月9日)Stokes/Park「BRIDGE × WORD」
(2月27日) やみ・あがりシアター「サンカイ」
(3月27日)演劇ユニットG.com 「ロボットとわたし」
(4月9,11,13日) ロンドン・アポロシアター「Wicked」
(4月25日)新宿シアター・ミラクル「ミラクル祭’19 A.ver」
(6月11日)filamentzプロデュース「いざ、生徒総会」

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