<映画レポート>「82年生まれ、キム・ジヨン」

#映画

【ネタバレ分離】昨日観た映画、「82年生まれ、キム・ジヨン」の鑑賞レポートです。

映画基本情報

タイトル

「82年生まれ、キム・ジヨン」

2019年製作/118分/G/韓国/原題:Kim Ji-young: Born 1982
配給:クロックワークス

キャスト

ジヨン:チョン・ユミ/デヒュン:コン・ユ/ミスク:キム・ミギョン/ウニョン:コン・ミンジョン/ジソク:キム・ソンチョル/ヨンス:イ・オル/ヘス:イ・ボンリョン

スタッフ

監督: キム・ドヨン /原作:チョ・ナムジュ/撮影:イ・スンジェ/編集:シン・ミンギョン/音楽:キム・テソン

公式サイト

82年生まれ、キム・ジヨン
(公開後、一定期間でリンク切れの可能性あり)

映画.comリンク

作品解説

平凡な女性の人生を通して韓国の現代女性が担う重圧と生きづらさを描き、日本でも話題を集めたチョ・ナムジュのベストセラー小説を、「トガニ 幼き瞳の告発」「新感染 ファイナル・エクスプレス」のチョン・ユミとコン・ユの共演で映画化。監督は短編映画で注目され、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン。

あらすじ

結婚を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨンは、母として妻として生活を続ける中で、時に閉じ込められているような感覚におそわれるようになる。単に疲れているだけと自分に言い聞かせてきたジヨンだったが、ある日から、まるで他人が乗り移ったような言動をするようになってしまう。そして、ジヨンにはその時の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。そんな心が壊れてしまった妻を前に、夫のデヒョンは真実を告げられずに精神科医に相談に行くが、医師からは本人が来ないことには何も改善することはできないと言われてしまう。

満足度

★★★★★
★★★★★

(5.0/5.0点満点)

鑑賞直後のtweet

ここから先はネタバレあり。注意してください。

感想(ネタバレあり)

すごい映画だった。女性の生きづらさ、というのは頭で分かっていても、当事者でないと理解が難しい。それ故に、いわゆる「差別」が社会に残り続けてしまう。そんな社会の雰囲気や悪しきものを、2時間の映画で、ありありと切り取った作品。息苦しいネバネバした現実を、延々と見せられている感覚もあり、見ていて決して楽しい気分ではなかったけれども、この短時間でこのテーマの重さを物語にのせて、説教臭くなく描き切るのは凄いな、と思う。韓国の女性を描いているが、韓国だけでなく日本の女性の状況にもほぼほぼ当てはまる。世界中の女性が共感するのではないか、とも思う。イスラム圏の女性がこの映画を見たらどう思うのか、感想を聞いてみたい…、なんて事が頭をよぎった。また、男性としての私の目線では、頭では理解していても、実感として理解するのが難しい部分でもあるように思うので、この空気感、絶望感は、自分の理解を広げるのにも役立ったように思う。

元は韓国でベストセラーとなった小説、という事だけれど、ジヨンが病気になる設定が、巧妙でとてもいい。本編小説ではどう扱われていたのか、気になる。「精神的な病」という説明はなされるけれど、具体的にどのような病気なのかは、説明がない(少なくとも日本語字幕上は、無かったように思う)。もちろん、女と母、両面で生きる事への精神的に負荷が大きくて病になってしまった、という見方もできるが、それ以上にジヨンが患っているのは、いわば、人類全体が侵されている女性に対する考え方の病だ、という捉え方もできる。少し寓話的な、あるいは隠喩的な設定になってしまうので、劇中そういった事は全く隠されているが、明確に意識してこの「病」という設定を作ったのだろうな、と思う。

ジヨンの調子が悪いと知った母が、ジヨンのもとに駆け付けると、ジヨンに憑依していたのはジヨンの祖母だった。思わず涙してしまう。ジヨンが精神的な病を発病するほど追い込まれている現実線の事実と、「教師になりたかった」母が時代背景もあり自由に世界にはばたけなかった事への労いの言葉、とがダブっていく。ジヨンに、自由になれなかった女性たちの思いの代弁者が、憑依しているのではないか、という風に見えてくる。そして、ラストシーンの近いところで、精神科医が「患者が病気を認めて通院するのが、治療の中で一番難しい」という趣旨の事を言う。続けて、子連れでコーヒーショップに入った時、悪口を言う若者たちに立ち向かっていったエピソードが出てくる。

いきづらさを抱えた女性が、自らの生きづらさを認める事はとても難しい。まず、認める事が難しいのだと思う。加えて、社会の中で声を上げていく事は、もっと難しい。それでも、病を認める事が出来れば、先に進むことができる、という精神科医の言葉が、人類全体に対して投げかけているようで、とても重い。「精神の病」という基本的なストーリーは崩さず、かつ、このストーリーの結末としてのテーマをある程度分かり易く描くのが、見ていて気持ちよかった。

ジヨンを演じるチョン・ユミの表情が、とにかくアップになる作品。ものすごく美人なのに加えて、憑依したり、疲れ切ったり、希望に燃えたり、怒りを覚えたり、悲しみのどん底に居たり、と、それぞれの状況で見せる表情が、とても魅力的だった。全体としてはどうしても重い話である中で、彼女のいろいろな表情を見ているのが、とにかく楽しい。加えて、コン・ユの優しい表情も印象的。場面ごとに、登場人物に産まれている感情を、大事に描いているのも、役者さんの表情と共に印象的だった。


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