<映画レポート>「モロッコ、彼女たちの朝」

#映画

【ネタバレ分離】昨日観た映画、「モロッコ、彼女たちの朝」の鑑賞レポートです。

映画基本情報

タイトル

「モロッコ、彼女たちの朝」

2019年製作/101分/G/モロッコ・フランス・ベルギー合作/原題:Adam
配給:ロングライド

キャスト

アブラ:ルブナ・アザバル/サミア:ニスリン・エラディ

スタッフ

監督: マリヤム・トゥザニ /製作:ナビル・アユチ/脚本:マリヤム・トゥザニ/撮影:ビルジニー・スルデー

公式サイト

モロッコ、彼女たちの朝
(公開後、一定期間でリンク切れの可能性あり)

映画.comリンク

作品解説

地中海に面する北アフリカの国モロッコを舞台に、それぞれ孤独を抱える2人の女性がパン作りを通して心を通わせていく姿を、豊かな色彩と光で描いたヒューマンドラマ。これが長編デビュー作となるマリヤム・トゥザニ監督が、過去に家族で世話をした未婚の妊婦との想い出をもとに撮りあげた。アブラ役に「灼熱の魂」のルブナ・アザバル。

あらすじ

臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア。イスラーム社会では未婚の母はタブーとされ、美容師の仕事も住居も失ってしまった。ある日、彼女は小さなパン屋を営むアブラと出会い、彼女の家に招き入れられる。アブラは夫を事故で亡くし、幼い娘との生活を守るため心を閉ざして働き続けていた。パン作りが得意でおしゃれなサミアの存在は、孤独だった母子の日々に光を灯す。

満足度

★★★★★
★★★★★

(4.0/5.0点満点)

鑑賞直後のtweet

ここから先はネタバレあり。注意してください。

感想(ネタバレあり)

3年前に、モロッコのカサブランカに、仕事で1ヶ月ほど滞在した。タイトルを見て、あの風景をまた見れるかな・・・という期待があったのだけれど。その期待はちょっと外された。二人の女性の再生を描いた人間ドラマ。風景の描写は殆ど無くて、メディナの中のパン屋さんの内部でたまたま出会った二人の女性を描く。確かに、モロッコのメディナって、あんな感じのパン屋さん・・・メディナの壁にシャッターが埋め込まれた感じの商店がメディナの中に結構あったのを思い出す。あと、屋上で語るシーン、アンテナとアンテナコードがぐちゃぐちゃになっているのも、モロッコのメディナを上から見た姿そのままなのも思い出す。

風景の期待は裏切られたけれど、中身はとても濃い人間ドラマ。夫と死別した事を乗り越えられずに常にキツイ表情をするアブラと、理由は明確には語られなかったように思うけれど、未婚の母になってしまったサミア。偶然出会う事で、二人の人生に変化が産まれていく。アブラの心がほぐれていく様。どこかで聞いたことがあるような話ではあるものの、この女優さん、ルブナ・アザバルの乾いた演技がとにかく絶妙で、痛みがヒシヒシと伝わってくる。サミアは、息子を養子に出そうして、殺そうともするが、最終的には自分自身で育てる(と思われる)道を選ぶ。

背後に、イスラム社会での女性の権利だったり、地域に限らず女性が虐げられている、という背景はあるものの、映画の中ではほとんど語られない(アブラが夫の葬式の事を語る所くらい)。語らずに、その場でもがいている女性の心情をダイレクトに描くことで、現実にある差別みたいなものを絶妙に浮き上がらせている。大きなテーマを捉えているのに、焦点はあくまでその場で生きる人間ドラマ、というのが、物語としてはとても秀逸だなぁ、と感じた。

劇中の場面が、どこか絵画のよう。他の人の感想を読んでいたら、監督さんが、フェルメールやミレーの絵に影響を受けている、との事。フェルメールの「牛乳を注ぐ女」・・・と巳ながらすぐにタイトルは思い出せなかったけれど、あの絵そのままじゃん、みたいな事を思う。美しいシーンだけれど、モロッコをもう少し映してほしかったので、ちょっとこの美意識には感じ入れなかったかなぁ。

アブラ役の、ルブナ・アザバルの演技がすごい。前半、絶対に謝ろうとしない鋼鉄の心と、後半のアイシャドーを引くシーンに、ちょっとドキドキしてしまった。この女優さんは、モロッコの人ではなくて、ベルギー生まれみたいだけれど。

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