<映画レポート>「チャンシルさんには福が多いね」

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【ネタバレ分離】昨日観た映画、「チャンシルさんには福が多いね」の鑑賞レポートです。

映画基本情報

タイトル

「チャンシルさんには福が多いね」

2019年製作/96分/G/韓国/原題:Lucky Chan-sil
配給:リアリーライクフィルムズ、キノ・シネマ

キャスト

イ・チャンシル:カン・マルグム/ポクシル:ユン・ヨジュン/レスリー・チャンらしき男:キム・ヨンミン/ソフィー:ユン・スンア/キム・ヨン:ぺ・ユラム/パク代表:チョ・ファジョン/チ監督:ソ・ソンウォン/トンチク:カン・テウ/ソヨン:キル・ドヨン/ヨルミン:イ・ドユン/化粧係:ムン・ヒョイン/ヘア係:イ・ヒョア/マネージャー:ク・キョイク/通行人:アナスターシャ/チャンシルの父(声):キム・ヨンピル/カン・ミンス/キム・スンユン/キム・ファジュン/ムン・イヌァン/ソン・イング/シン・ソクホ/オム・ジュヨン/オ・ソヨン/ウ・ソンウン/ユ・ヘミン/チョ・ヒョンヨン/ヨ・ペウ/イ・ヨンジン

スタッフ

監督: キム・チョヒ /製作:ソ・ドンヒョン,キム・ソンウン/脚本:キム・チョヒ/撮影:チ・サンビン/美術:キム・ジンヨン/衣装:カン・ドンユル/編集:ソン・ヨンジ/音楽:チョン・ジュンヨプ/主題歌:イ・ヒームーン

公式サイト

チャンシルさんには福が多いね
(公開後、一定期間でリンク切れの可能性あり)

映画.comリンク

作品解説

長年にわたりホン・サンス監督作のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒが初メガホンをとり、自身の体験を投影させながら描いたオフビートなコメディ。Netflixドラマ「愛の不時着」のキム・ヨンミンが、香港スターだと言い張る男性役で出演。

あらすじ

映画プロデューサーのチャンシルは、ずっと支えてきた映画監督が急死したため失業してしまう。人生の全てを映画に捧げてきた彼女には家も恋人も子どももなく、青春さえも棒に振ってきたことに気づく。そんな彼女に、思わぬ恋の予感が訪れる。

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5.0点満点)

鑑賞直後のtweet

ここから先はネタバレあり。注意してください。

感想(ネタバレあり)

いわゆる「中年の危機」30代~40代で陥るアイデンティティの喪失を、どう捉えるか。その事を、淡々と、前向きな作品のトーンで、捉えた作品だった。昨年の映画「82年生まれ、キム・ジヨン」との類似を語られている感想をよく見かけたけれど、この映画のチャンシルさんの抱えている問題は、ジェンダーとは無関係なように感じる。単純に、誰もが陥るアイデンティティの喪失を、たまたま男性ではなく女性の視点から描いた、普遍的な問題の映画、だと思う。

思いがけない事があって人生の「枠」が崩れた時、人は生きる意味みたいなものを問い直さないといけなくて。問い直すに至らしめた状況・・・映画監督の死と失業は不幸かもしれないけれど。実はチャシルさんはとても幸福な状況にいる。そうやって何かを問い直す時間を与えられたのだから。でも、自分の周りに何があるのか、自分が歩んできた人生に何があったのか、その幸福な部分に気が付けない。「枠」が崩れたショックからか、それまでの人生で捨ててきた、無いものばかりに目が行ってしまう。

きっと、30代~40代、誰でも経験する事ではないかと思う。人生とは、1つの可能性を選ぶことだ。1つの可能性を選ぶという事は、他の可能性は捨ててくることだ。選んだ可能性が潰れた時、それまで捨ててきた可能性に思いを馳せるのは、実は自然な行動だと思う。

無いものに目が行って、もがく事で、自分が何者かという事と、おぼろげなアイデンティティを、もう一度発見していく。最後に、唐突に、脚本を書き出すチャンシルさん。「これだ!」っていうものが見つかる過程を、細かく描いている訳ではない。その後の結末は描かれていないけれど。書いてみたら、実は脚本家には向かない事に気付くかもしれない。

それでも、人生は進んでいく。でも、きっといつか、何か見つかる。それは、字が読めない大家さんが、老いても地区センターで習い始めた事と同じだったり、あるいは幽霊・・・というより、妄想の中の過去の自分の憧れであるレスリー・チャンとの対話で応援されながらだったり。そうやって、何かを探していく。そんな今はまだ少し後ろ向きなチャンシルさんを映しながら、前向きに応援している映画だった。

現実味の深い映像で埋め尽くされているのに、実はとてもファンタジックに描いている作品だな、と思った。特に、レスリー・チャンだと言い張る男、の登場させ方が絶妙。キム・ヨンミンは、私は知らなかったけれど、「愛の不時着」の俳優さんだそうで。脚本・監督をつとめた、キム・チョヒの自伝的な要素もある作品との事。やはり、年齢とか、ある種の人生経験とか、見る人を選ぶよなぁ、という気がした。この監督さん、レスリー・チャンと「愛の不時着」、共に大好きだったりしたら、面白い。正に妄想。このファンタジー感で描く「中年の危機」どこかで観た気がする…のだけれど、見た直後、思出せなかった。少しうろ覚えだけれど、荻上直子監督の「かもめ食堂」や「めがね」の描いている世界観に、少し近い気がした。この二作も、どこか現実感から浮いた、フワフワした感覚だった記憶。

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