<観劇レポート>劇団印象-indian elephant-「カレル・チャペック〜水の足音〜」

#芝居,#劇団印象

【ネタバレ分離】昨日観た芝居、 劇団印象-indian elephant-「カレル・チャペック〜水の足音〜」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名劇団印象-indian elephant-
劇団印象-indian elephant-第29回公演
カレル・チャペック〜水の足音〜
脚本鈴木アツト
演出鈴木アツト
日時場所2022/10/07(金)~2022/10/10(月)
東京芸術劇場シアターウエスト(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

「印象」と書いて「いんぞう」と読む。劇作家・演出家の鈴木アツトを中心に2003年に設立。「遊びは国境を越える」という信念の元、“遊び”から生まれるイマジネーションによって、言葉や文化の壁を越えて楽しめる作品を創作している。主な作品は、『ジョージ・オーウェル~沈黙の声~』、『藤田嗣治~白い暗闇~』、『エーリヒ・ケストナー~消された名前~』、『グローバル・ベイビー・ファクトリー』、『青鬼』(若手演出家コンクール2012優秀賞・観客賞受賞)など。海外での上演・共同創作も多数。

劇団印象-indian elephant-

過去の観劇

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

闘争か共生か。軍靴の足音が迫るプラハ、母語によって分断される国民。その荒波に抗った、“言葉”を愛した芸術家たちの群像劇。

[劇作家より]
『ロボット(R.U.R.)』『山椒魚戦争』で知られるチェコの劇作家・小説家カレル・チャペックと、チェコスロバキア共和国内に住む、ドイツ語話者たち(ズデーテン・ドイツ人)との関係を描きたいと思い、この物語を書いている。

チェコスロバキア共和国は、第一次世界大戦中の1918年に、ハプスブルク(オーストリア)帝国の解体によって生まれた新しい国だった。しかし、新生の共和国は領域内に、様々な民族を抱え込んでいた。特に、ハプスブルク帝国時代に支配言語であったドイツ語の話者たちは、チェコ時代になって、二級市民扱いされたことによって不満を溜め、軋轢が生まれていった。その鬱屈は、二十年をかけて大きくなっていき、やがて、ドイツ語話者が多く住むズデーテン地方をナチスドイツに割譲するという、ミュンヘン協定に繋がっていく。

​>同じ土地を故郷に持ちながら、母語が違うというだけで、分断されていく国民たち。文化は言語を通して生まれ、育まれる。だからこそ人間は母語に誇りを持つ。しかし、同じ言葉を喋らない人々に対して不寛容になり、時に恐怖心さえ持ってしまう。母語は、個人のアイデンティティーと分かち難く結びつき、“よそ者”を作り出す、人間の原罪の一つだ。チャペック兄弟の人生を借りながら、この母語と国家をめぐる物語を届けたいと思う。

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2022年10月7日
14時00分〜
上演時間140分(途中休憩なし)
価格4000円 全席指定 初回割

チケット購入方法

劇団のホームページから、CoRichで予約しました。
当日受付で、現金でお金を支払い、指定された席の券をもらいました。

客層・客席の様子

男女比は5:5くらい。40代upが多め。年齢層高め。

観劇初心者の方へ

観劇初心者でも、安心して観る事が出来る芝居です。

芝居を表すキーワード
・シリアス
・会話劇
・考えさせる

観た直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(4/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

ケストナー、藤田嗣治、オーウェルときて、4本目の印象は、チャペック。そして、東京芸術劇場。時代時代のあるシーンを切り取りながら、主人公の生き様を切り取っていくスタイルで、歴史の再認識から、現在の世界についても思考を促される演劇なのは今回も同じ。チャペックなので、「RUR」(ロボット)の話が多く出てくるかと思ったけれど、あくまで一つの要素として登場するのみ。ロボットが国民劇場で初日を迎える日からお話がスタートし、第二次世界大戦、ヒトラーの台頭を追いかけながら、彼の死の日までを描く作品。

いつもは、名前は聞いた事があっても、あまり背景を知らない人物のお話を観ることになるのだけれど、今回はちょっと違った。先日たまたまテレビの番組で、チャペックの文学と半生について取り上げられていて、その上での観劇だった。たまたま見た番組での若干の予備知識はあったものの、2つの要素が劇中際立ってい、テレビでの解説だけでは分からない事が、演劇でつかめた。

1つは、チェコスロバキアという国の位置づけ。第一次世界大戦後に出来た国。あまり細かい事を知らなかったので、ドイツとの折り合いの付け方に驚く。チャペック自身も、ドイツ系が多いズデーデンの地域の出身。チェコ語が、どの程度ニュアンスに富んだ言語か・・・というのは、私には到底分かりようがないけれど、別の言語を話す人々との軋轢が、社会の軋轢にも繋がってしまう様を、チャペックの家の部屋の様子を描いているだけなのに垣間見れる。この軋轢の話を聞いてしまうと、思わず、今起こっているウクライナの戦争の事も思い浮かべてしまう。ロシア語とウクライナ語と、話す地域の差・・・とか、実はゼレンスキーは、出身地柄からロシア語の方が堪能だったりとか、戦争が起こってから知った知識を、思い浮かべる。欧州の民族模様、それに伴う覇権の争いの歴史は、なかなか理解できていない事なんだろうなぁ、なんて事を、チェコスロバキアという視点から見た、一つの風景として、実感を持ってみる事が出来た。

もうひとつは、兄、ヨゼフ・チャペックとの関係。ロボットという語を産み出したのが、兄のヨゼフだという事は、そのテレビ番組で知ったのだけれど、カレル・チャペックの作品を手助けしていたり、画家としての活動に焦点が当たって描かれていたのが面白い。テレビの中では、割と晩年、二人が写った写真が紹介されていた。劇中、兄弟は同じ家に住む設定になっていて、それが実際の事実に基づいているかは分からない。おそらくある程度の創作が入っているのではないか、と思うのだけれど。弟との関係に悩みながら、自らの批判的な絵画を推し進めていく姿が、写真でしか見てていなかったヨゼフ・チャペックという人の人となりの、解像度を上げて観る事が出来たような、そんな気がした。

今まで観た3作から推測すると、創作として作り上げられた「会話」をもとに、史実に思いを馳せるように仕向けてくるのが「印象」の作風だけれど、今回は少しは異なり、純粋な会話だけでなく、心象真理というか、悪夢のようなシーンが差し挟まれる。ドイツ人の教師と、山椒大夫・・・という名の異語を話す人々達に、夢の中の世界で襲われる。今回の悪夢のシーンが、演劇的な演出として成功していたか・・・と言われると、ちょっと首をかしげる部分は多かったものの、今まで見てきた「印象」の作品の描き方が少し変化してきたように見えて、面白い。会話だけの作品だと、どうしても単調になってしまう部分が否めない。内面の心象心理の風景みたいなものを舞台に取り込んでいくと、更に面白くなっていくのかな、というのを感じた。