<観劇レポート>NICE STALKER「ロリコンとうさん」

#芝居,#NICE STALKER

【ネタバレ分離】 NICE STALKER「ロリコンとうさん」の観劇レポートです。

公演前情報

公演・観劇データ

項目データ
団体名NICE STALKER
ロリコンとうさん
脚本イトウシンタロウ
演出イトウシンタロウ
日時場所2023/08/30(水)~2023/09/03(日)
ザ・スズナリ(東京都)

CoRich 公演URL

団体の紹介

劇団ホームページにはこんな紹介があります。

劇作家イトウシンタロウを主宰とする、「個性的な女子」をフィーチャーした作品制作を行う団体です。東京都の劇場を中心に、台北など海外でも舞台作品の発表をしています。また「本物高校生vs偽物高校生」と題してプロの俳優と高校生が共同で作品制作を行うWS公演を独自に開催するなど、中高校生を対象とした普及活動にも努めています。

NICE STALKER

事前に分かるストーリーは?

こんな記載を見つけました

【ホワイト化する社会… 多様性という修羅を 善人として 生き抜くための物語】

「多様性の時代」と言われる令和の日本においてさえ、決してその輪の内に入れられる事はないだろう「ロリコン」の方々…そのリアルな実態と心の内を、フィールドワークに基づいて描きます。実際に30人以上の「ロリコンの方」とお会いし、通話し、テキストを送りあって取材しました。まずは、善悪や好悪に拠らず、糾弾も称賛もせず、世界にはこういう人間がいるんだ…というところから話をはじめられればと思います。

NICE STALKER 主宰
作・演出/イトウシンタロウ

ネタバレしない程度の情報

観劇日時・上演時間・価格

項目データ
観劇日時2023年09月01日
19時00分〜
上演時間130分(途中休憩なし)
価格3800円 全席指定

観た直後のtweet

満足度

★★★★★
★★★★★

(5/5点満点)

CoRich「観てきた」に投稿している個人的な満足度。公演登録がない場合も、同じ尺度で満足度を表現しています。
ここから先はネタバレあり。
注意してください。

感想(ネタバレあり)

性的な対象としてロリコンをネタにしている、漫画同人誌を書いている中年男。結婚し娘が出来た。給料は安い。金が必要だからと、儲かる同人誌を続けている。そんな中で周りの人々・・・一緒に同人誌を作る仲間だったり、同人誌のファンだったりは、ロリコンという「性癖」に悩まされて、人生にいろいろな影響を受けていく。また、ロリコンではないが義理の兄は、風俗通いが止められず妻からストーカーまがいの追跡を受けている。そんな中、どうしてロリコン漫画を描き続けたのか・・・という事を、産まれてきた娘に、例え理解できなくても、理解してもらおうと努力する話。物語は終始、中年男の視点で語られるが、この役は実際にロリッぽい少女(桑田佳澄)が演じる。ラストには、この物語は、主人公を娘が演じることで、自分の気持ちを少しでも理解して欲しい・・・という父の想いから出た事が明かされる。・・・と、情報量はとても多いので、かなり強引にまとめるとこんなお話。

実際に「ロリコン」な人々にインタビューを通して取材し、フィールドワークの後に完成させた脚本との事。NICE STALKERのサイトに、脚本創作過程の情報が展開されている。

まず思うのは、「ロリコン」っていう扱いずらい題材で、細かい言葉の端々までにバランス感覚を適切に保ちつつ、上手く演劇して描き切ったなぁという事に、感嘆のため息が出る。全体的にはコメディタッチで、会場から笑いが起きるのだけれど。私は「面白い」とは思いつつも、絶妙なバランスの上に成り立つ言葉には、全然笑えない。ありきたりの、道徳を装う善意という名の独善を、何度も何度も払い捨てた後にたどり着いた場所で、一つ一つのセリフが発せられているんだろうなぁ、っていうのが伝わってくる。

結局のところ「ロリコン」というのは、妄想を現実にしてしまえば、すぐに加害性を持ってしまう性(サガ)。劇中に対称的に登場する「風俗通い」とは、社会への受け入れられ方が似ているようで全く違う。登場するロリコン達のもがきが切実であるにもかかわらず、社会としては決して許せない線がある。その線を、何とか踏み越えないようにしながら、創作などの代わりのモノで「誤魔化そうと」する姿が、どうにも物悲しい。とはいえ、こんなに苦しんでいるのだから許してあげれば・・・とも決してならない。そんなどうにもならない、救われなさと。その気持ちを物語にして娘に演してもらい、理解してもらおう・・・という、冷静に考えるとキモ、でも、もうそれ位しか無いだろう・・・と思う状況に、やるせなさ以外に何もなくて。笑の中で悶々とさせられる、130分。こんな物語を提示してくるNICE STALKERは、やっぱりすごいなぁ、というのを再確認した作品だった。

役者さん。主人公の桑田佳澄、時にロリコン、時に物語全体の狂言回し、時に男女入れ替わっている父の役の変化が、印象が非常に強く残った。